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恋するカリブの楽園「サン・アンドレス島」
燦然と輝く太陽、どこまでも透き通るターコイズブルー。カリブ海に浮かぶ小さな楽園で過ごした日々を思い出すたびに、トキメキが蘇る。
◇
サン・アンドレス島行きを決めたのは、中米グアテマラで出会った日本人女性から、「あの島の海が忘れられない」という話を聞いたからだった。当時26歳の私は中南米を縦断していた。
調べると、サン・アンドレス島はコロンビア領なのに、コロンビア本土から700kmも離れた場所にある。地理的にはニカラグアやコスタリカに近い。直感で惹かれ、チケットを購入した。
2016年4月、コロンビア第2の都市メデジンから国内線で飛んだ。離陸しておよそ1時間半、目が覚めるようなブルーが広がる絶海の孤島を窓から覗き、「マジか……」と声が漏れた。
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そこには究極の楽園があった。カラッとした気候、真っ白な砂丘、いろんなブルーが混ざり合う海。
エメラルドブルー、ターコイズブルー、サファイアブルー、セルリアンブルー……
サンゴ礁の濃淡や陽光の加減で移ろう景色から、「七色の海」と称えられている。
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島民の多くはアフリカ系で、英語がよく通じる。
かつてはイギリスやスペイン、オランダなどに侵略を繰り返され、アフリカから多くの奴隷が連れてこられた。1991年、正式にコロンビアの領土として認められた。
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レゲエ音楽を愛する島民は、陽気でフレンドリー。ココナッツの実に入ったトロピカルドリンクがよく似合う。
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サン・アンドレス島には4泊5日滞在した。宿周辺はヤシの木が生い茂り、小鳥のさえずりが心地良かった。
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朝7時に起きると、サンダルを履いて外に出る。スタッフに「おはようございます」と挨拶をすると、にこやかな笑顔で「みく、おはよう」と返してくれる。
スタッフ「朝ごはん、もう用意していい?」
私「はい、お願いします!」
赤やピンクの花が咲き乱れる中庭で朝食をとる。パンやスクランブルエッグ、レンズ豆のスープ。食後にショコラテを飲むのが至福だ。
部屋でひと休みしてから、水着に着替えて海に繰り出す。
◇
どうやら私は「七色の海」に恋をしてしまったらしい。毎日飽きることなく無我夢中で泳いだ。カリブの灼熱の太陽に焼かれ、私の肌は現地民に負けないくらい真っ黒けに。
島の西側中央には天然プール「ピッシニータ」がある。海に潜るとサンゴ礁が広がり、まるで水族館の水槽の中みたい。
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カラフルな熱帯魚たちは人間慣れしている。手を伸ばしても逃げないので、一緒に泳いで戯れた。
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現地民のお兄ちゃんが「上から飛び込んでみな! 俺が下で見ててやるから」というので、なかば強制的にダイブ。
ザッパーーーーン!!!!!!
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飛び込んだ瞬間に盛大な水しぶきが飛び、私の体は冷たい海にズーンと深く沈んだ。手を大きく漕いで、水上に「ぷはっ!」と浮上する。
空が青い。どうしようもなく楽しくて、ケラケラ笑った。そうだよ。私、昔はこんな遊びが大好きだったんだ。
夏休みに、母が用意してくれたおにぎりや唐揚げを持って、家族で地元の川に遊びに行った。妹と変なポーズをしながらダイブして大笑いしてたよね。
いつから「恥ずかしい」と思うようになったのだろう。少しずつ人目を気にするようになって、無邪気にはしゃげなくなって、いつのまにか大人になっていた。
でも私は今、日本から遠く離れたカリブ海でひとり。気にするものはなにもない。
旅は往々にして人を大胆にする。「七色の海」は、私の少女時代の感覚をすっかり呼び起こしていた。
◇
「ウエスト・ビュー」というスポットでは、ウォータースライダーや飛び込みジャンプ台で遊ぶことができる。
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大人も子どもも、ビュイーンともの凄いスピードでスライダーを滑り、深い海にドッポーンと落ちていく。
中毒性があるスリルと爽快感で、私も3回滑った(笑)。
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1時間後、現地民に「楽しいからやってみな!」と背中を押され、私はジャンプ台に立っていた。
見下ろすと真っ青な海。透き通った水中を泳ぐカラフルな魚の大群がくっきりと見える。足がすくむ私に、まわりのコロンビア人が「ファイト!」と声援を送ってくれる。
ふぅ……深呼吸。
飛べ!!!
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ひゃぁぁああーーーー
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ドッボーーン!!!
静寂に包まれた世界に深く深く沈む。そして外界に向かって手を大きく漕ぎ、2秒後には勢いよく水面から顔を出した。
「ブラボー!」
太陽が眩しい。落ちた衝撃で外れたゴーグルを手で手繰りよせながら、私は豪快に笑った。そんな自分がすごく好きだと思った。
◇
サン・アンドレス島には、イギリスの大海賊「ヘンリー・モーガン」が、島の洞窟に財宝を隠したという言い伝えがある。子どものころ海賊に憧れていた私は心躍った。
しかし、洞窟以上に私の冒険心を掻き立てる秘境があった。
サンゴでできた小さな離島「ロッキー・ケイ」には、エメラルドグリーンの浅瀬を歩いて渡ることができる。そこからさらに200mほど泳いだ先に鎮座しているのが、座礁船だ。
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話によると、船が座礁したのは40年以上も前。当時のままの状態で残されているらしい。
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現地のお兄さんにガイドしてもらい、船のなかをいざ探検。朽ちた船内は暗く、鉄が錆びた匂いが充満していた。
水中をゴーグルで覗くと、海底に船の残骸がひっそりと横たわっている。小さな魚の群れが、うっすらと差し込む陽光を浴びてキラキラと光る。静寂が不気味でゾクゾクし、同時に言葉にできない神秘を感じた。
これ、ロマンの塊やんか……。かつてのこの船が活躍していた時代に想いを馳せる。
お兄さんに手助けしてもらいながら船のてっぺんに登り、最後はやっぱり海へとダイブした(笑)。
◇
宿に戻り、日焼けして火照った体を冷水シャワーで冷やす。温水は出ないが、暑いので気にならない。
さっぱりとした私は、市場で買ったバナナを食べることにした。妙に硬い皮を剥き、パクッと食べた瞬間、思わず顔をしかめた。
「げっ、なにこれ。マズい!」
バナナを片手に、宿のオーナーのシェイラに尋ねてみると、彼女は大爆笑。
「それはバナナに似てるけど、"プラタノ"という全く別の食材なの。今から美味しい食べ方を教えてあげるから、見てて」
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彼女はナイフを器用に使ってスルスルと皮を剥き、薄切りにした。
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フライパンに油を注ぎ、サッと揚げていく。
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揚げあがると、サッと塩をひとふり。完成したのが、「パタコネス」という一品だ。
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シェイラ「できたよ! さ、食べてみて」
パクっとかじると、サツマイモに味が似ていて、塩味もちょうど良くておいしい! 確かにこれはフルーツのバナナと全然ちゃうわ(笑)。
パタコネスをつまみながら、その場に居合わせたスペイン人のライアと語った。
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真剣な表情で彼女は言う。
「私ね、将来は女優として世界で活躍したいの。そのために今、コロンビアで名前を売り込んでいるのよ」
彼女が起用されたミュージックビデオやCMを見せてもらった。いやいや、めちゃくちゃかっこ良いやないかい! なんだかグッときた。
私ももっと、生きたいように生きよう。やりたいことをやろう。
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サン・アンドレス島にはひとりで来たのに、常に誰かと一緒に笑っていて、まったく寂しくなかった。
島を発つ日、宿で親切にしてくれたおばあちゃんに折り鶴をプレゼント。シェイラやお掃除のおばちゃんや、みんなとハグをして別れの挨拶をした。
涙で潤んだことがバレないように、目を合わせずに去ってしまったことが唯一の心残り。
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七色の海の美しさか、人の温かさか、陽気なラテンのバイブスか……なにがトリガーだったのかわからない。
いずれにしても私は、サン・アンドレスで失いかけていた大切なものを取り戻した。
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