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4. 審判取り下げから再会まで

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54. 娘の言葉

54. 娘の言葉

可奈は私に会いたいと言ってくれるだろうか?

まだ幼いうちに、一年以上もの間引き離されてしまったので、正直自信はなかった。母親という存在は知っていても、私の顔は忘れているかもしれない。

当事者の友達も夏生も母も、皆な「絶対大丈夫!」と言ってくれけど、不安は拭えなかった。

もしも会いたくないと言われたら?

もしも本当に、裕太の言うように「ママに会いたいと言わない状態」だとしたら、可奈が片親疎外

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53. 娘の主治医との対面

53. 娘の主治医との対面

長い道のりだった。やっとここまで来た。向こうは私の一挙一動を判断材料にするだろうから、細心の注意を払って面談にのぞもう。
そんな複雑な気持ちを抱きながら、私は可奈の通う診療室のドアを開けた。



その日は、可奈の主治医と初めて対面する日だった。私はこの日をずっと待っていた。

審判の取り下げをするとき、「可奈の主治医と話したい」と裕太に伝えたけど、先生は忙しく、なかなか会えずにいたのだ。
いや

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52. 夫婦カウンセリング・その後

52. 夫婦カウンセリング・その後

夫婦カウンセリングはその後何度か通ったけど、正直あまり進展も効果も感じられなかった。

精神分析のチャートをやらされたり、お互いの家族構成を聞かれたり、簡単な質問に答えただけで、特に何か提案される事はなかった。
先生は私達の言うことに対してあまり反応がなく、いつも手応えを感じないまま帰路についた。

5回目のカウンセリングの帰りに、裕太が「もうやめよう。無意味だ。」と言い出し、私はもちろん賛成して

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51. 夫婦カウンセリングへ

51. 夫婦カウンセリングへ

裕太が指定してきた夫婦カウンセリングは、マンションの一室にある、臨床心理士のカウンセリングルームで行われた。

思ったより高齢の先生で、部屋にはたくさんの本が積み上げられていた。正直なところ、こんなに高齢の方が様々な形を抱える『現代の夫婦』のカウンセリングを出来のか?と、一抹の不安を感じた。



カウンセリングは、まずは先生がそれぞれと30分ほど話すところから始まった。その後、先生を含めた3人

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50. 夏生の言葉と取り下げ申請

50. 夏生の言葉と取り下げ申請

可奈に会えなくなった当初、夏生がかけてくれてよく思い出していた言葉がある。

「俺は自分の息子のためだったらなんだってやるし、必要だったら嘘だってつくし人殺しだってやる。それが親ってもんじゃないのか?」

人殺しはやや大袈裟だけど、言いたいことはわかる。私も可奈の為だったら何でもやるし、プライドを捨てるくらい容易いことだ。それで可奈が救われるんだったら恩の字だ。



浜田さんに審判を取り下げる

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49. 取り下げの理由

49. 取り下げの理由

裕太が取り下げを望んだ理由にはこんなものがあった。

「毎月届く書面がかなりのストレス。それに、調停から審判に移行するときに追加で弁護士費用がかかるから、その前に取り下げて欲しい。そのお金は可奈のために使ったほうがよっぽどいい。」

取り下げ~和解の際に公正証書を起こすのを嫌がったのも同じ理由からだった。弁護士に依頼して書面を起こすと、また費用がかかる。

「信頼関係があればそんなものはいらない。

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