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50. 夏生の言葉と取り下げ申請

可奈に会えなくなった当初、夏生がかけてくれてよく思い出していた言葉がある。

「俺は自分の息子のためだったらなんだってやるし、必要だったら嘘だってつくし人殺しだってやる。それが親ってもんじゃないのか?」

人殺しはやや大袈裟だけど、言いたいことはわかる。私も可奈の為だったら何でもやるし、プライドを捨てるくらい容易いことだ。それで可奈が救われるんだったら恩の字だ。

浜田さんに審判を取り下げることを伝えると、驚きつつも半ば呆れているようだった。無理もない。浜田さんにしたら、あんなに一緒に頑張ったのに、これからというところで審判を取り下げ、公正証書も残さないなんて、大丈夫か?と心配になるだろうし、割に合わない仕事をさせてしまったのだ。

申し訳なかったけど、しょうがない。全ては可奈のためなのだ。直接交渉出来る様になったのだから、どう考えてもこっちの方がいい。

そう思うと力が湧いてくるようだった。

可奈に幸せになって欲しいから。大人の諍いに巻き込んでいる場合ではない。彼女の人生は、まだ始まったばかりなのだから。まだ間に合う。

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