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2019/12/30 2019年の3冊《その他篇》

1 サンキュータツオ・春日太一『ボクたちのBL論』(河出文庫)
 昨年(2018年)ある深夜にテレビで桜日梯子『抱かれたい男1位に脅されています。』のアニメ第7話の放送を偶然見た。全然知らない作品だったけれど、映像と演出の美しさに夢中になっていた。この第7話は、主人公の東谷がなぜ高人に惹かれるようになったのかを描いたエピソードだ。
 BL(ボーイズラブ)のジャンルがあることも、それが人気であることも知っていたけれど、それまでまともに読んだことも見たこともなかった。だから、原作を読んで大変驚いたのだけれど、初めて知ったジャンルであるBLのことをもう少しきちんと知りたいと思った。そんなときに、本屋で出会ったのが『ボクたちのBL論』だ。
 おもしろさでいえば、今年一番の、抜群のおもしろさだった。本書は、BLを好んで読むタツオさんが、初めてBLを知る春日さんをナビゲートしながら対談が進む。初心者のわたしも春日さんとともに導かれる。そこで分かったことは、「(漫画・アニメを含む)テクストをどう読むのか」を著者の二人がまじめに考えていて、その思考と対話の過程に読み応えがあり、それが本書のおもしろさであるということだった。「余白と補完」をめぐる「観察」がカギになるというというのは、BLに限らずあらゆる作品を読むときにも重要なことだと思う。これこそが作品を味わう醍醐味と言えるかもしれない。
 わたしが偶然見たアニメに惹かれた理由のあらかたは本書に指摘されている。今年の読書テーマのひとつとして、いくつかのBLを読んだ。それで自分のこととして分かったのは、「2019年の3冊《漫画篇》」で挙げた水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』のような、人間関係のひとつとしての恋愛と人のありかたとをじっくり読める作品をおもしろいと感じるということだ。むしろ本書でタツオさんのレククチャーのおかげで「ファンタジー」として読めるようになったおかげでスムーズに読めるようになった。別に他者の身体的な生々しさを見たいわけではない。


2 平野啓一郎『「カッコいい」とは何か』(講談社現代新書)
 自明のことのように使われる「カッコいい」ということを、語誌的な記述を手掛かりにしながら、洋の東西を緯糸、時間(歴史)を経糸として張り巡らせ、様々な視点から論じる。平野さんは本書を「試論」だというが、かなりの分量。そのために、どれだけ渉猟されたのかと思うと気が遠くなる。
 「カッコいい」が身体的な感覚と結びついている指摘にはっとした。「ときめき」や「好き」「感動」は心・脳の話だと思い込んでいたことに気がつく。「しびれる」体感は心身を繋いでいる。
 手に入れたばかりのCDやレコードを聴きたくて、帰宅後すぐにプレイヤーに向かって「しびれる」「興奮する」件(p461)など、具体的に共感できる例も挙げられている。今の若い人なら、「しびれる」よりも「鳥肌が立つ」と表現するほうがしっくりするのかもしれないと思った。「鳥肌が立つ」を「感動」という肯定的な意味で使用する例はもう随分前から見聞きしているけれど、ずっと違和感を持っていた。しかし、「カッコいい」と感じて震えるとき、生理的興奮が伴うという著者の指摘を読むと「鳥肌が立つ」もあり得るのだと納得できた。


3 田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)
 あまりにも単刀直入な書名だ。しかし、書いたものの最初の読者は自分自身なのだから、至極真っ当なことなのである。本書は、書名通りに書くためにどうすればよいのかヒントを示してくれる。ただし、何よりも大切なことは書き続けることだ。

調べることは、愛することだ。自分の感動を探り、根拠を明らかにし、感動に根を張り、枝を生やすために、調べる。(p185)


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