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ダイナミック・プライシング

先月実施した主催マーケティング
セミナーのテーマは「Price」だった
のだが、今日のタイトルに掲げた
「ダイナミック・プライシング」を
取り上げていなかったことに今更
気が付いた。
一昨日お会いした学生時代の兄弟子が
現在某ホスピタリティ産業の経営に
関わっていらっしゃり、同産業では
この「ダイナミック・プライシング」
がスタンダードな考え方ということ
で、少々お話しさせていただいたの
がきっかけ。

この単語を聞いてもどんなものなのか
パッとイメージできない方もいるかも
しれないので説明しておくと、
要は価格を固定化しないで、需要と
供給の状況に応じて柔軟に変更する
価格政策のことである。
Wikipediaに倣って一言で表すと、
「動的価格設定」
「価格変動制」
「変動料金制」
といった具合となる。

飛行機のチケットや、ホテルなどの
宿泊料金に代表されるように、
ホスピタリティ産業においては、
繁忙期と閑散期で需要の量が大きく
異なる。
繁忙期には価格を高くして需要を
抑え、逆に閑散期には価格を低く
して需要を喚起する、そんな意図を
持って行われるのだ。

価格というのは、お客様がその商品に
払うだけの「価値」があるのだ、と
いうことの、売り手側の意志表明だ。
高い価格を提示するということは、
それだけ高い価値があるのだ、ある
はず、と売り手が考えているという
こと。
逆に、低い価格を提示するという
ことは、それなりの価値でしかない
と売り手が考えていることになる。

メーカーなどでは、「一物一価」、
「定価」や「正価」というように、
基準となる価格を一つに決めておく
場合が多い。
「ダイナミック・プライシング」に
おいても、「定価」を一応持つ場合
もあるのだろうが、需給バランスに
応じてかなり差が出る場合も多い
ので、もはや「定価」の概念など
無きに等しい。

「ダイナミック・プライシング」の
考え方は、そもそもの発想が、
変動の激しい需要を、価格をテコに
コントロールすることで、売り手の
供給体制をいかに効率よく回すか、
それによっていかに利益を最大化
するかというポイントに起因して
いるように思われる。
顧客を自分たちの都合の良い方向に
誘導しようという意図がありありと
見える、と言うと言い過ぎかもしれ
ないが、個人的には何となくそこに
「あざとさ」を感じてしまうので
ある。

ただ、消費者の利益を増やすために、
「ダイナミック・プライシング」を
積極的に用いていると言っても良い
企業も存在する。
その筆頭は、Amazonであろう。
同じ商品が自社サイトより安く売られて
いるところがないかをパトロールして、
もしそういうところがあれば、自動的に
自社サイトの価格を同価格にまで引き
下げている。
お客様にとってみれば、Amazonで
買い物をする限り、最低価格の保証が
あるようなもの。
競合にとっては恐怖以外の何ものでも
ないが、お客様にとっては便利この上
ないことは間違いない。

話をホスピタリティ産業に戻そう。
ホテルやエアチケットなど、閑散期と
繁忙期の価格を変える政策は、極めて
合理的な話ではある。
特に、閑散期に関しては、安くする
ことで「そんなに安いのなら、試して
みよう」というトライアルの機会を
創出し、お客様に大きなメリットを
提供している。

しかし、繁忙期に関しては、足元を
見られるかのように高い価格で
買うことを余儀なくされるのであり、
「顧客志向」を標榜している
マーケティングの思想からは
あまり望ましくないように思われる。

とはいえ、繁忙期が繁忙するのには
それなりの理由がある。
例えば、ホテルであれば、この時期
各地で開かれる「花火大会」を
とても良い環境で観ることのできる
部屋というのは、1年前から埋まって
しまう。
同じ部屋だから、通常と同じ価格で、
という理屈は、この場合通用しない。
そもそも花火をベストロケーションで
観ることができるというとてつもない
価値が付加されているのであるから、
その分の価値が上乗せされるのは至極
当然なのだ。

というようにあれこれ考えていくと、
「ダイナミック・プライシング」を
適用するにあたっても、説明責任を
きっちりと果たしさえすれば、
「顧客志向」の観点から見ても、
必ずしもNGとはならなそうだ。
売り手側のオペレーションを効率化
して、お客様へのサービスレベルを
向上させることで、顧客も自分も
満足のいく解決策となるのだろう


ちなみに写真は、帝国ホテルの
ロビーで一昨日撮ったもの。
これほど人のいない、閑散とした
ロビーは初めてであった。
コロナ禍を心配せずに多くのお客様
が集うロビーに、一日も早く戻って
くれることを願う。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。