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第5回「車の横転」 栗御殿への道 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年7月号

森に囲まれた農場は朝晩冷える。膝に乗ってくるシャム猫マリ様の温もりがありがたい。雨が少なくなり、乾燥してくるこの季節、車の運転には気を付けようと思い出すことがある。そう、この時期だったよ国道フェルナンジアスで車が横転したのは。

農場を始めて2年目、当時はサンパウロ市内に住んで小さめのピックアップ車で平日1人で農場に通っていた。サンパウローアチバイア間をしょっちゅう移動するのに加え、100㎞圏内の日系団体のお祭りに焼き栗を出店していたので車の年間走行距離は6万キロを超え、トラック野郎みたいだった。とはいえ、車は軽トラみたいなもので長距離運転するのはきつかったので、整備して少しでも快適に運転できるようにとタイヤを交換し、ホイールバランス等ばっちり整えていた。

その日も朝サンパウロに入る反対車線の渋滞を横目にすいすい市内を抜け出し、アチバイア方面に向かう国道フェルナンジアスに入った。フェルナンジアスはサンパウロからミナス州へ北にのびる国道で、アチバイアにいく途中山を越え峠がある。ごちゃごちゃした市内と違い、霧がかかる谷から朝日をみる毎日だった。が、7月のその日、乾季の真っ最中だったのに、珍しく小雨が降っていた。いつものように早朝マイリポランのトンネルを抜け、下りのカーブに入ったところだった。レーダーがあるので80㎞以下で走っていたはずなのに急に右カーブでつるんとスリップ、右にぎゅっと滑って2~3秒、ハンドル操作もブレーキも危険なので何かアクションしたいのを我慢してなすがままに放置していると、次はなんと車が180度回転してバックで走り出したのだ。バックで下りカーブを走るなんて前代未聞、もうダメ!今度こそ無傷で済まないよ!と思っているうちにゆっくり中央分離帯のコンクリブロックにぶつかり横転。。。。。。左ドアが下になり、しばしハンドルを握ったまま無言で無事に生きていることを噛みしめていたところ、外では4、5人の男性が車を取り囲み、目をひんむいてカウマ!(落ち着いて!)と叫んでいる。別にわたしゃ、泣き叫んでませんからと思いつつ、黙って天井になった右ドアからもそもそと這い出す。

ぼーっとしているうちに、みんなが横転した私の車を「えいや!」と押してバッタン!と、元通りに。おそらく私の横転をみていたドライバーたちだったのだろう。みんなすごく親切だった。すぐに救急車が来ると、カウマ!と叫んでいたおじさんは「オレはもう行くから、後はあの人たちに頼めよ」といって、救急車に引き渡され、かすり傷った左腕を消毒してもらった。結局レスキューには、車も体も無事だと言われ、車も走れると。その日はサンパウロ市内のナンバープレート規制の日だったので、サンパウロに引き返さず、そのままアチバイアへ。左窓がなかったので寒かった。料金所では肘の破れた上着、擦り傷だらけの左手で小銭を渡す。

アチバイアの街に到着したら、修理屋を梯子して窓ガラス、サイドミラー、ホイールを替えた。みんな擦り傷だらけの車を見るなりトンボウ?というので、そこでひとつ「ひっくり返った?」という言葉をおぼえた。一応の車の修理が終わったのが昼の12時ごろだったので、焼き栗出店用の冷凍栗をさらに100㎞走ってミナスまで取りに行き、夜にアチバイアに到着。その後、サンパウロに帰ったという長い1日だった。

後から新品タイヤは100㎞ぐらい走らないとグリップが弱い、ということ、そして乾燥の続いた後の小雨状態は、アスファルトに路面のあぶらや汚れが浮いてきて滑りやすいとも友人が教えてくれた。

乾季中の小雨には必ずこの事故を思い出す。そして今日はフェルナンジアスできっと車がひっくり返っていると思ったら、だいたい当たっているのだ。フェルナンジアスの峠のカーブ、皆さんも気を付けてください。


田中規子(たなかのりこ)
2005年よりブラジル在住。
2013年よりアチバイア市にていきなり栗栽培をはじめた。
栗の加工品、焼き栗、栗菓子を作り、イベントや配達で販売中。栗拾い体験、タケノコ狩りなども農園で実施中。
Instagram: @sitiodascastanheiras

月刊ピンドラーマ2023年7月号表紙

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