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第3回「タンケの野良馬」 栗御殿への道 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年5月号

野生の馬がいるんですか?と、私の農場を訪問してくれたお客さんに言われたことがある。うちの近所でよく裸馬が、アスファルト沿いの草をのんびり食んでいるのだ。私もどこから来た馬なのか不思議に思っていた。近所に聞いてみたところ、それはここいらで有名な無法者のA氏のだという。

A氏はちょっとあやしい人たちが住んでいる地区の人で、馬を飼う土地はないけど数頭の馬を飼っていて、自分のところに牧草がないので意図的に「放し飼い」をしている。そんな野良馬がいると、迷惑千万なわけである。ついには馬と衝突して事故った人も発生した。警察に訴えても野良馬は管轄外といって取りあわない。ここには、野菜農家、花農家もたくさんいるのだが、馬が勝手に畑に入り、荒らされたという人も結構いる。A氏に文句を言ったら、柵をしてないから勝手に入るんだと言ってとりあわない。餌を自前で用意する気はないらしい。そんな厚かましい輩が何人かいて、野良ロバに野菜畑を食い荒らされ続けた野菜農家のCさんはとうとう引っ越してしまった。

ところで私の農場が位置するタンケ地区は、1950年代にコチア産業組合という日系農協がタンケ地区の多く(多くのなに?)を買い取り、組合員農家に分譲したため日系農家、日系コミュニティーがまだ残っている。とはいえ、日系人ばかりがこの地区にいるわけではない。大多数のまじめに暮らす庶民もいれば、あやしい人もいる。かと思えばあやしい地区のすぐ横には豪勢なコンドミニアムがありお金持ちの別荘がある。昭和日本で育った私には、まじめな庶民ばかりが近所の人たちだった。こんな近くに渾然一体といろんな階層がいてなんらかの影響を受けるという自分の状況がカルチャーショックなのだ。草刈業者が仕事の代金払ってくれと言ったら、払わねぇよと凄まれたとか。でも残念ながらこれはブラジルのどこにでもよくある話だ。ただ、それなりのパワーバランスもあるらしい。

この前まで、若者がバイクをブンブン乗り回していたことがあった。うるさくて仕方なかったのだが、いまはピタリとなくなった。なぜなら、ここらのボスがこういう目立つのがいると警察が取り締まりに来て自分たちの商売があがったりになるのでやめさせたらしい。実はA氏の息子もバイクをブンブンさせてたらしいが、今はなりを潜めている。ついでに野良馬もみかけなくなった。馬で事故った人は金持ちの人だったからだとか。モヤる気持ちは残るがいまは問題が減った。

こういう「いろんな人」がいるところで、どうやって農場を切り盛りしていくのか、そして地域に貢献できるようになるのかが私の課題なのである。でも正直あやしい人とは関わりたくないです。


田中規子(たなかのりこ)
2005年よりブラジル在住。
2013年よりアチバイア市にていきなり栗栽培をはじめた。
栗の加工品、焼き栗、栗菓子を作り、イベントや配達で販売中。栗拾い体験、タケノコ狩りなども農園で実施中。
Instagram: @sitiodascastanheiras

月刊ピンドラーマ2023年5月号
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