「ネズミ取りのお話」 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2022年12月号
南米にある国、ブラジルのある所に農場がありました。農場には主と妻の夫妻がいろんな動物と一緒に住んでいました。
ある日、住人のひとりのネズミが農場の母屋の壁の穴から居間をうかがっていると、農場主がなにやら包みを妻に見せてます。
「何か美味しい食べ物かな?」
ネズミはそう思いました。
「ちょっとでもいいからかっさらえないかな?」
わくわくして主が包みを開けるのを待ってました。
「ほら、これを買ってきたよ」
主は夫人に説明してます。
なんと、包みからでてきたのは、ネズミ取りでした。一部始終を見ていたネズミはパニックになりました。
「大変だあ!えらいこっちゃあ!この家にネズミ取りが置かれる!これは大変だあ!」
ネズミ取りのような恐ろしい物が設置されるのです。捕まったら死を意味します。
ネズミは他の住民に知らせないといけないと、大慌てでニワトリの所に行きました。
「ニワトリさん!大変です!主がネズミ取りを置くことにしました。危険です!」
と、ネズミは言いました。
「ネズミ取りなんて、私はへっちゃらだわ。そんな物にかかるわけないでしょ。私には関係ないわ」
と、ニワトリは言いました。
そこでネズミはブタの所に行きました。
「ブタさん!大変です!主がネズミ取りを置くことにしました。危険です!」
と、ネズミは言いました。
「わしには関係ない!おまえらネズミの問題だろ。うるさい、あっち行け!」
と、ブタは言いました。
かえって怒られたのでネズミはウシの所に行きました。
「ウシさん!大変です!主がネズミ取りを置くことにしました。危険です!」
と、ネズミは言いました。
「あのね、ちゃんと見てごらんなさい。私みたいに大きな牛がネズミ取りにかかるわけはないでしょ?どこが危険なのよ?私には関係ないわ」
牛はそのように言いました。
ネズミは誰にも相手にしてもらえなく、すごすごと自分のねぐらに戻って行きました。
ネズミは毎日ビクビクして生活していました。
ある夜、バチンとネズミ取りが作動した音がしました。何事かと壁の穴から覗いてみると、通りすがりの蛇が尻尾のところから罠に挟まれてます。そこに、音がしたからと夫人がどうしたのか見に来ました。夜で暗かったので状況がよく見えません。ネズミ取りに近づいた瞬間、尻尾から挟まれていた蛇に思いっきり咬まれました。悲鳴を聞きつけた主が急いでかけつけました。
「大変だ。毒蛇だぞこれは」
と、主は叫びました。そしてすぐに夫人を病院に連れて行きました。
二日ほどして、夫人が退院して帰って来ました。でも体調がすぐれません。熱が続き、しんどいのです。
「これは何か栄養のつく物を食べさせてやらないといけないな」 主はカンジャ・デ・ガリーニャ(ブラジル風鶏雑炊(註1))を作ることにしました。ニワトリが絞められ、夫人にカンジャを与えました。
滋養食のカンジャを摂ったりしても、夫人の容態は改善しません。それどころか、悪化する一方です。そのうち、寝たり起きたりが困難になってきたので主は介護人など使用人を増やすことにしました。いつもは夫婦で生活しているのですが、母屋には人が増えました。
「がんばってくれてる皆を養わないといけないな」
主はブタを屠殺して使用人に食べさせることにしました。
しかし、主をはじめ皆の懸命な看病にもかかわらず、夫人は亡くなってしまいました。夫人は大変温厚で社交的な方だったので、葬儀に近所や遠方からたくさんの人が最後のお別れに訪れました。
「人がいっぱいだな。これだけの人数だ… 仕方ない、牛肉料理を振るまうことにするか」
主はウシをつぶして弔問客をもてなしました。
結局、最後に生き残ったのはネズミでした。
教訓
全く関係のないと思っているところから災難が降りかかってくる。
『このコラムの24人の読者様。そこら辺に設置されているネズミ取り、本当にご自身には関係ないのですかね?注意深く思慮深く生活しないと危ないですよ』
月刊ピンドラーマ2022年12月号
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