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「接ぎ木」 栗御殿への道 第7回 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年11月号

なぜ栗なの?と、よく聞かれるのだがズバリ栗は手間がかからない果樹だからである。私の目標は、半年農業をして残りの半年は海や山に行って冒険したり、執筆活動したり、好きなことをする生活なのだ。それには作業期間が長くないこと、そして農業経験無しで始めた私には技術的にやさしいものでなければならない。日本人としてブラジルで展開するのだからやはり日本の果樹、そして加工や観光農業に繋がるもの、ということで選んだのが栗だった。栗はブラジルでは栽培がまだ少ないため、病害虫もなくほぼ無農薬で栽培できることも大きな利点だった。

が、どうしても技術的に難しいのが接ぎ木である。果樹はふつう種から植えて、2年ほど成長したらばっさり上を切って違う品種の枝(穂木)を接ぎ木する。種から植えて土台になる木は台木といい、台木用の品種は勢いがあるとか、病害虫に強いものを使う。その上に接ぐ穂木は、実が大きい、多収、早く実がなる、美味しいといった生産者、消費者に都合の良い品種を接ぐ。そうすると、木は強くなり実は多収でいい品種の苗ができ、早く実がなる。早く栗園をつくるには既に接いである苗を買って植えるのがいいのだが、ブラジルでは栗の栽培が少ないせいで販売しているいい苗を見つけるのが難しかったため、自分で接ぎ木をすることにした。

そこでブラジル温帯果樹指導者の第一人者、U先生をお呼びして接ぎ木を習うことにした。まずは鉛筆大の穂木を、一発でスパッときれいに切れ!と言われた。これが一番大事なんだと。「いっぱーつ!」と、かけ声とともに指の先をぶっとばした夫は、早々に戦線離脱、戦力外通告である。非力な私は一発で切れず、断面がギザギザになる。これではいかん、ということで、最初は技術者や、U先生に習った地元の人に接いでもらっていたが、どうもなぜだかうまくいかない。

接ぎ木した穂木

考えられることは…接ぎ木した人がヘビースモーカーなせいでは?畑で接ぐときに穂木が乾燥しないように口に咥えておくようにとの指導で、口の中のニコチンが穂木に悪影響なのではと考えたり。飴を舐めながら穂木を咥えて穂木に糖分を与えるのだが、その飴の種類が悪いのか???コーヒー飴だとカフェインがあるから良くないんじゃ???など農業技術とはほど遠い素人考えな要因をあれこれ思案してみたのだが、よくわからない。

結局他人に頼んでも活着率も良くないのでもう自分でやるっきゃない、と思い立ってやり始めたらなんとできた。穂木をスパッと一発で切るのは、やってるうちに、コツがある、ということがわかった。手の力だけでなく一番力が伝わり易い角度を工夫すると私でも一発できれいに切ることができたのだ。必要なことは自分のなかにある、と確信した。結局自分でやったほうが活着率は高くなった。飴はハチミツ飴にしたためなのか何が原因かわからないが、やはり私の栗愛が活着率を高めたのであろう。

接ぎ木は非常に切れ味の良いナイフを使い、台木も穂木も薄く切るためとても神経を使う作業で、この時期は手にノコギリ跡や切り傷が絶えないが、いまでは接ぎ木した苗を販売するまでになった。今年8月に接いだ穂木は、いま30㎝以上は伸びている。来年はいくつか毬をつけてくれることだろう。


田中規子(たなかのりこ)
2005年よりブラジル在住。
2013年よりアチバイア市にていきなり栗栽培をはじめた。
栗の加工品、焼き栗、栗菓子を作り、イベントや配達で販売中。栗拾い体験、タケノコ狩りなども農園で実施中。
Instagram: @sitiodascastanheiras

月刊ピンドラーマ2023年11月号表紙

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