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第1回「アチバイア栗園10周年」 栗御殿が建つのはいつか 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年3月号

わ〜❣ 毬がいっぱい♪ と、栗畑をみてほくそ笑んだ2022年11月。いま私の栗園では約580本の栗の木があり、ようやく本格的な収穫を迎えようとしていた。じわじわと蝉の声が響く栗畑に立ち、たくさんの大きな毬をみると感無量になる。小さな栗の種、つまり栗をほんの一坪に100粒ほどおそるおそる蒔いたのは2013年1月。それが芽を出し成長し、接ぎ木し、定植してだんだん本数を増やし、そうして今年でアチバイア栗園は10年を迎えた。

10年前まではコンサルなどの仕事をしてブラジルに一人赴任していたのだが、そういう仕事や生活が自分に合わない、と気が付き、自分で農場を経営して自活してみたいと思ってはじめたのが栗園だった。それまでも一応農業関係の仕事ではあったが、栽培は全く経験も知識もなかった。大きな助けになったのはそれまでに培った農業関係者との人脈だった。

最初はほんの小さな土地の苗に水やり、草取りなどの世話をした。アチバイアの私の土地からサンパウロ市内までは約70㎞あり、当時はサンパウロに住んで通っていた。日系3世の夫は平日まだサラリーマンをしていたので、私は一人で運転して誰もいない農場に行き作業をして夕方帰った。鍬一本で黙々と一人で。

そこから始まって今10年、栗畑をみると胸が詰まる。いまはいっぱい栗の木があり、そして今季から急激に栗がたくさんとれはじめ、いきなり栗農家になった感がある。去年までは生栗はスポット販売的に小売店に卸していたが、今年からはさばききれず、CEASA(サンパウロ市の卸売市場)に週3回販売した。栗の栽培だけでも毎年やり方を変えていかなければならず、それが楽しくも工夫が必要になってくる。去年までは畑で採れた栗を一輪車を手で押して運んでいたが、今年からはトラクターで運んでいる、という風に。

そして今は一人じゃない。まず、この原稿を見守るシャム猫のマリ様が優雅にたたずむ。犬のごんちゃん、あんこちゃん、小鳥のピッピちゃん、そして夫がいる。夫は4年前定年退職してからサンパウロのアパートをひきはらい、以来こちらに住んで一緒に農場の仕事をしている。普段は私の10分の1以下しか働いていないように見えるが、やはり自営となるとどうしてもやり遂げないといけないことがでてきて涙ちょちょ切れながらブチ切れると最後までつきあってくれるありがたい存在、と言っておこう。

農場の住民だけでなく、駐在員のお客様、サンパウロに住む日本人、地域の日系人、ブラジル人、栗の販売先の韓国人など、様々な人と関わり助けてもらいながら生きている。これからそんな私の小さな日常を皆さんにお届けしたいと思います。ちなみに栗御殿について、夫はタージマハールのような栗型の建物を考えているらしいが、それは私の趣向とは合わない気がする。栗御殿までの道のりはまだ長いが夫が存命中にはなんとかしてあげたいなと思う。

田中夫妻(栗園にて)

田中規子(たなかのりこ)
2005年よりブラジル在住。
2013年よりアチバイア市にていきなり栗栽培をはじめた。
栗の加工品、焼き栗、栗菓子を作り、イベントや配達で販売中。栗拾い体験、タケノコ狩りなども農園で実施中。
Instagram: @sitiodascastanheiras


月刊ピンドラーマ2023年3月号
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