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ESCAPE④

自分の時間

 湖のそばのベンチが私の定位置になりつつある。「整った自分」というのも私のテーマの一つだったから、毎朝6時に目が覚めるまま朝のウォーキングをすることにしている。こちらに着いてから、幸いまだ雨が降っていないので毎朝のウォーキングはもう私の日課になっている。初日こそサンドイッチを買って食べたけれど、その後はスーパーで短くて丸い日本の米に似たお米を見つけたので、それを炊いておにぎりを作ることにした。それを持ってウォーキングに出かけ、湖のそばでそれを頬張る。もし私の様にここに来る人がいたら、私は毎朝同じ時間に現れるオニギリ女として気になる存在になっているだろう。でも今のところ、馴染みの顔はいない。すぐそばのインフォメーションセンターでバスツアーの休憩時間を過ごす人たちが、時々この辺りを歩いているだけ。日本人かと思ったら中国からだったり韓国からだったり。その見分け方を最近身につけた気がする。ちゃんと説明は出来ないけれど。

 時間もお金も無い時はものすごく欲しくなるのに、自分が十分だと思う以上にあると突然その価値を失う気がする。私にとって時間ってなんだったんだろう。
そして、「私のための時間」ってそもそもなんだろう。ベンチに腰掛けて、そんなことを考える朝。どこまでも青い空と湖。本日も晴天なり。

時間

 午後になっても時間のことを考えていた。でも一度パソコンを開いたら、少し気が紛れた。私が経営する店のスタッフから数日に一度送られてくる店の様子の写真や文章。その流れで店のスタッフブログを見る。私の好きなコーヒー、焼き菓子、人の話し声が聞こえてきそう。
 あの店での日々が私の「時間」だったのでは。
そう思った時、もう一人の私が口を開く。好きなことを仕事にするもんじゃないという人の言葉が分かる、って思うこともたくさんあったじゃないの。
 何か自分自身の問題なのだろう、店に八つ当たり的に無理難題を押し付けてくる中年の女性。写真をたくさん撮って、ほとんど食べ物や飲み物には手をつけずに席を立つ若いカップル。優しく受け止めたい、理解をしたいと思っても、自分やスタッフへの想いの方が勝ってしまうことも多々あった。売り上げのダウンに頭を抱える夜もあった。
 それでもやっぱり好きな音楽、好きな香り、好きなものに囲まれて仕事をするのは格別だったと思う。その日常を失って更に良い思い出が強く私の心に迫る。
 ゲストハウスのオーナーが教えてくれた素朴なカフェのカプチーノが目の前にある。その上にミルクの泡で描かれた土星と、そこに散らされたココアパウダーをじっと見つめながら、「自分だけの時間」を売っていた自分の仕事と重ね合わせる。
 

4月16日

 今日も元気かな。朝ごはんは何を食べましたか。今日は朝、いつも通り湖まで散歩しておにぎりを食べました。こっちのご飯もなかなか美味しいよ。日本のご飯と似てる。あ、でもグルメなジンさんは「違う」って言うかもね。
 どう?おにぎり、食べに来ない?なんてね。おやすみなさい。いい夢を。


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