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だのになぜ、ポスティングするのか

7月は毎年ポスティングが続く。8月は服部緑地野外音楽堂でのたそがれコンサートがあるから。豊中・吹田の服部緑地に近い大きなマンションを中心に夜な夜なポストを目指す。
今年でもう5年目となる。

集まったメンバーでのポスティング

毎年それなりに結果が出るからこそのポスティングである。しかしながら今年は、13,000枚配布してなんと3枚しか返りがない。しかも、ずっときて下さっているお客さまである。

大体、チラシは1000枚まくと1人〜2人の返りがある。チラシをまいた翌日から3日以内くらいにはオンラインないし電話で注文がある。普通にもう既に20人くらい返りがあっても良いくらいだ。

服部緑地周辺から順次ポスティングしています。

夏の最中にチラシを配るのは、慣れていてもきつい。メールコーナーは湿度のたまりになっていたり、ダンゴムシやゴキブリや、頭上にはクモや蛾がいる。異臭もする。チラシを1000枚配るのに1時間。夜全ての仕事が終わってから繰り出して21時30分くらいに開始して1500枚配ると23時を過ぎる。目の前のポストと向き合いながら、「今年こそ来て下さい」と一軒一軒念じていく。ポストの向こう側(あるいは開けた側)の誰かに向けてチラシを入れていく。足元にあるチラシのゴミ箱には不動産のチラシをはじめたくさんのチラシが山のように捨てられている。きっと明日はうちのチラシが入っているのだろう、と思わない日はない。


住人や管理人に話しかけられることもある。もちろん注意されることもある。
今回のワンシーン…
「ねえ、何のチラシを配っているの」と女性に話しかけられ、こういった演奏会があるんですとチラシを見せる。「へえ、素敵ね。でもその日は無理だわ。私エホバなの。会があるから。」と去っていく。そんな時間まで会があるのも、この人たちも苦労しているのだろうと思う。
もちろん。「チラシ禁止」と書いてあるところにもポスティングする。ゴミ箱にたくさんのチラシが入っていたり、不在のポストからチラシが舌を出しているところはある意味目印となる。「チラシ禁止」とポストに貼ってあるところも、大体ここは管理人の目が行き届いていないのだなと判断もする。とはいえ、それなりの背徳感がある。後ろめたさだ。だから、チラシのポスティングは、ホール前のチラシ配りとは違う、僅かではあるが確実に積み重なる神経戦となる。

一人でまくことも多いです

だから、こうしてチラシを配布してチケットの返りがないのはものすごく落ち込む。チラシの配り方が悪いのか、それは自分だ。チラシのデザインが悪いのか、デザインをしたのは自分だ。演奏者が悪いのか、それは自分だ。自分たちに魅力がないのか、それは自分だ。
100%自分が悪いように思えてくる。
一人でポストの前に立っていると、気づけば自分で自分に問いかける時が増える。立ち止まる回数が増える。


帰って布団に入ると寝つきが悪い。そして、悪夢を見る。高校時代の友人が「もう辞めたら」と声をかけてくる。先生が出てきて「ひかりさんは音楽で食べているんだよね」と言ってくる。客席に誰もいないステージで何を吹くんだっけ、と暗譜が真っ白になる夢も見る。「チケット売れないやつは素人だ」という声で泣きながら目が覚める。

何故、チラシをまき続けるのだろう。何故、演奏をし続けるのだろう。

理由はただ一つ。

私は、私たちの音楽を信じているからだ。

私たちの音楽は今素晴らしく、さらに今からさらに素晴らしくなる。目の前のお客さまの心にもっともっと届けられる。目の前のお客さまが増える、どんどん心に素晴らしい音楽が届いていく。
だから、新しい人に会いたいのだ。「あ、行ってみたい」と心のドアを開けて、私たちの音楽を聴いてくれる誰かに会いたいのだ。
チラシがきっかけなのか、SNSがきっかけなのか、誰かの紹介なのか。どんなきっかけでもいい。私たちの音楽を聴いて欲しいのだ。


正直言って今回はかなりすり減っている。ここにこうして書き留めないといけないくらいすり減っている。

けれども。積み上げこそが私たちの手段だとこの8年が語っている。だから、諦めない。辞めない。


今日の夢は、坂本龍一が出てきた。「君たちの演奏が楽しみだ」と彼が舞台袖からステージに出ようとしている時に、振り返って私たちにそう言った。外は大雨だった。


素晴らしい演奏会にします。ぜひきてください。

20240714

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