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【前が見えない】彼は誰時




あなたは誰ですか?



夕暮れを前に、あなたの顔が見えなくなりました。






もう会えないこと、

もう帰っては来ないことに気づいたのは



11月になってからのことでした。



あんなに暑い夏が、知らない間に終わって、


記憶から全てがすり抜けているようでした。




「いつ帰ってくるんだろう」、という思いも


いつしか諦めに変わって



「いい子にしていなかったからだ」と言う感情が


今になっても消えません。



なんとなく「あ、もう帰ってこないんだ」と察し、


受け入れたと言い難いのは、


十数年経った今でもそうなのかもしれません。




いつ帰ってくるの?




幼い頃に、言えなかった言葉や、守られなかった心は


大人になっても仕舞い込んで、傷は癒えずにのこるのです。









心や身体が疲れた時、


引き戻される記憶があります。



最近は、「忙しい」なんて思ってしまうほどに


心を亡くしてしまいました。



喜怒哀楽の全てを、勿体ぶらずに言葉や声に変えていたら、


自分の気持ちをすぐに伝えていれば、向き合っていれば、

もっと早く素直になれたら、


もっと大切を伝えていれば、





こんなに後悔することは無かったのに



それでも、ただ君に、晴れぬ空などないことを。






いい人ぶるな、正直でいろ



と、





先月7月は父の誕生日でした。




上空を漂う薄ら雲。

山桜桃梅。

アスファルトの焼ける匂い。

プールサイド。

蝉時雨。

鳥居。

夏陰。

上空を漂う薄ら雲。


夏草を掻き分けて寝転がっていた。

東京の空には殆ど映らない青色も、

想い出の中なら指先に届く。

逃げ水。

バス停裏。

木製の看板。

百日紅。

既視感。

風見鶏。


自分の物とすら思えないほどに朧げな記憶。

子供の頃見た幽霊の輪郭。

夜空。

夏の果て。

海月。

源氏蛍。

影法師。
分かれ道。

錆びた鉄棒。

落陽。

頬を撫でる温い風。

雲の高さ。

双眸。

群青。

夜水。

靴。

花火。

木漏れ日みたいな誘蛾灯。


追想。

晩夏。

夜しか眠れない僕らが。

これから先の人生、躓くことなんて当たり前だ。


それでも、ただ君に、晴れぬ空などないことを。


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