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【読書感想文】永井みみ著「ミシンと金魚」

あらすじ

主人公の老いた女性、カケイさんは認知症を患っている。ヘルパーのみっちゃんや家族に介護されながらも何とか日々を過ごしていた。そんな中、カケイさんはみっちゃんに問われる。「今までの人生、幸せでしたか?」カケイさんは多くのことに苦しみながらも強く生きた今までの人生を語り始める。

ぴーなりの感想(若干のネタバレ注意)

「あなたは今、幸せですか?」

…なんだか怪しい宗教の勧誘のような導入になってしまった。

そう考えると笑えてくるセリフだが、よく自分の体にしみこませてみると答えるのが一番難しい質問だとわかる。人類永遠の課題、「幸せとは何か」。

何でもないタイミングでそれを考えてしまうことがある。

同世代の友人やYouTubeの動画によく出ている人たちは、一見すると稼ぐことを至上として生活しているように見えるよな。かといって、たとえお金がたくさんあったとしても「まだ足りない」と思い続けてしまうだけではないか。でもお金がなくて何もできないのも幸せではないように感じるし。なぜか毎日筋トレをしてるマッチョな人は幸せそうに見えるなあ。でも「運動すれば幸せになれる」なんて、世の中そんな単純なものか?なんやかんや、明石家さんまの言う「生きてるだけで丸儲け」が真理なのかもしれんな…

…無限ループだ。一生わかる気がしない。

でも実は一つ、本書を読んだことで結論に近いものを見つけた。幸せなんてもんは、人生の最期にすべてを振り返ることでしか判断できないのではないか。

主人公のカケイさんの人生は壮絶だ。母は生まれてすぐ亡くなり、亭主は蒸発、周りには酒も借金も飛び交う。それは書いてある字面の内容だけでなく、カケイさんが読者の心臓をぎゅっとつかむような語り口調、ページをぱっと見た時の行間からも伝わってくる。(本に没頭したとき、読んでいた場所でするはずのない匂いを感じたこともあった。)辛かっただろう。苦しかっただろう。それでも人生のいろんな出来事を振り返った後、カケイさんはこう言うのだ。

だれかに、しあわせだったか?と、聞かれたら、そん時は、しあわせでした。と、こたえてやろう。つべこべ言わず、ひとことで、こたえてやろう。

永井みみ著「ミシンと金魚」(集英社文庫)より

きっと多くの人は、長い期間ずっとそうとは言えなくても、「幸せだった」と感じる瞬間は体験しているはずだ。でも人間の脳は困ったもので、それを忘れてしまうことも多いのだと思う。人生の最期に振り返れるように、これから小さな幸せは、何かに書き留めておこうかな。



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