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My First New Yorkはコドゥンオチョリムとともに

コドゥンオ(鯖)とチョリム(煮物)で、コドゥンオチョリムという鯖の煮付け。韓国の家庭で定番料理の一つだそうだ。

唐辛子粉の赤さで見た目は辛そうだが、醬油や砂糖の入ったヤンニョム(薬念)でとろりとしたタレは見るだけで食欲をそそり、鯖の味噌煮が好きな人ならきっと口に合うだろう。

知らない韓国料理の情報や流行をハッシュタグから知るという流れは今では当たり前になったかもしれないが、黎明期のインスタグラムを使っていた22歳の私は#고등어조림からその存在を知った。
だが、初めて旅したニューヨークで、初めてコドゥンオチョリムを作るとは予想しない展開だった。

それからほどなくして、私はニューヨークのクイーンズ地区で借りたアパートの台所でコドゥンオチョリム(風)に挑戦した。

はじめにアパートから韓国系ローカルスーパーを目指して歩き、鯖とキムチを買いに行った。短期滞在の旅人だからとレシピに必要な調味料は揃えず「なんちゃって」を作ろうと決めた。

スーパーで運よく一人用のトゥッペギ(黒い伝統食器)と長いスプーンも見つけることが出来、迷わず買った。自宅に持ち帰った後も何年も愛用するとは思っていなかった。

買ってきたのは五百グラムほどはある生鯖に、大きいひと瓶のキムチ。二十代女子が四、五日の一人旅でこんなに鯖を消化できるのか。

せっかく初めてのニューヨークなのだから他にも色々食べた方がいいんじゃないかなど、何も心配もせずに衝動買いしたから、とにかく温かさ、辛さに飢えていたらしい。鯖とキムチのコドゥンオチョリム(風)は寒い一人旅の身に沁みて美味しかった。

たらふく食べた翌日、同じく日本から来ていたファッション志望の友人と、クイーンズ地区のFlushing-Main Street駅で落ち合った。

その日、テレビのニュースは大雪(ブリザード)一色。周辺住民の雪かきのお陰で道はなんとか歩けたが、足元から背筋まで凍える寒さだった。

駅前のチャイナタウンで無事三人集合し、チャイニーズレストランで一次会。鼻水をすすりながらラーメンを食べた。

その後、私が思いついて「この後うちに来ない?」と提案した。初めてのニューヨークという分際も忘れていたが、たくさん作ったコドゥンオチョリム(風)の残りが脳裏にあったのだ。

帰り道もなんとか雪をかき分けアパートにたどり着き、二人を招き入れた。椅子も足りないから地べたに座り、道すがら買ってきた韓国海苔とマッコリとともにコドゥンオチョリム(風)をつついてもらった。写真は残っていないが、骨以外、お鍋はすっからかんになったことを記憶している。

マイファーストニューヨークは大雪の寒さと、初めて自分のために作り、友人たちをもてなしたコドゥンオチョリム(風)の有り難さ、皆で食べきった嬉しさ。これからもずっと、胸に温かく残っていくだろう。

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