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【感情紀行記】小さな世界

 幼い頃は、世界が有限だった。有限だったからこそ、世界は無限に続いていた。小学生の頃は、今では徒歩20分もかからないような場所が広大に広がっているように感じていた。それより外の世界なんて考えたことも、見たことも踏み入れたこともほとんどない。もちろん、旅行やお出かけはすることはあっても、単発的なものであったし、飛び地のような、未知の新たな世界であったことに違いにない。

 いつの日からか背が高くなり、耳にはイヤホン、片手にスマホを持つようになり、アクセスできる世界は広く、相対的に現実の世界は狭くなっていった。小学生の時は、毎日が発見であったし、冒険であった。届かない自販機の商品とか、小さな虫、葉っぱ、手で感じる砂の温度、いろいろなことから季節や状況を感じ取り、楽しんでいた。楽しめなかったことなんてほとんどない。何かさえあれば遊ぶことができたし、楽しむことができた。

 社会というものを感じる必要だってなかった。よく、小学校の帰りにお小遣いをもらって近所のコンビニでチョコクロワッサンを購入していた。ささやかな楽しみである。百数十円の小銭を握り締め、ほぼ毎日のように買っていた記憶がある。普通に売られていたチョコクロワッサンはある日、「人気商品」の札がつくようになった。その後暫くし、そのチョコクロワッサンは「人気No.1」の称号を包装に印字されるようになっていた。その時の自分は、毎日のように買い支えている自分がこの人気を作り出し、このパンを人気No.1にまで押し上げたと本気で思っていた。コンビニが全国に展開されており、その包装がこの1店舗だけ、この地域だけではないことを知るまでは。

 活動時間も限られている中、小さな足でいろいろなことを体験し、冒険した。その活力が今も欲しい。そして、あの体験を再びしたい。イヤホンを外し、携帯を置いて、無邪気に街を歩いてみるのも良いのかもしれない。

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