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若者の日本酒離れをあきらめない。

少し前の資料になりますが、平成29年版の消費者白書で「若者の消費」という特集が組まれ、若者の「車離れ」と「アルコール離れ」がピックアップされました。政府の報告で、この2つが象徴的に取り上げられたというのは、なかなかインパクトがありました。

僕が学生の頃は、自分の車を持てて一人前だと思っていましたし、バーでカッコよくお酒を飲むことに憧れてよく背伸びをしていましたが、そのような感覚も今は昔なんだなと痛感します。「お金を儲けたからと言って、ランボルギーニでオフィスに乗り付けるのはクールとは思えない」とザッカーバーグもコメントしていたことがありましたっけ・・

「モノ」より「コト」に重きを置く世代へ

車離れの原因のひとつに、ステータスシンボルとして所有することよりも、ライフスタイルを追求することに若者の価値観が移ってきていることが言われています。所有=束縛という考え方もあります。

日本酒は、日々の繊細な管理のもと、精緻な製造をしているが故に、ついつい「モノ」の価値に重きを置いてPRしたくなるのは、僕自身も技術の世界に身を置いていましたのでとても良く分かります。

一方で、どれだけお米を削りました、どんな酵母を使っています、生もと造りです、といった説明は、日本酒離れが進んでいる若者に対しては、あたかも、車に関心のない人にエンジン性能を一生懸命説明しているような印象も感じてしまいます。

昨今、日本酒は、スペック競争や見栄えをカッコよく見せたようなブランド作りがちょっと流行っているように感じますが、それは本質ではないと思います。(本質はちゃんと別のところにあるのでしょうけど、消費者にはうまく届いていないように感じます・・)

日本酒を飲みながら仲間とかけがえのない時間を過ごすことができた、日本酒を通じて海外の人たちにも誇ることができる日本の伝統の一旦に触れた、蔵を巡る風景を感じながらその土地でしか味わえない料理と日本酒を体験した、地産地消という酒蔵のポリシーに共感した。
若い世代の皆さんが日本酒に関心を持ってもらうためには、記憶に残るような日本酒体験が必要だと感じますし、実際にそういう体験をしてもらいたいなと心から思っています。

酒樽

健康志向が高いミレニアル世代

アメリカではsober curiousというスタイルがトレンドになっているようです。Soberとは「しらふ」を意味します。お酒が飲めるけど、あえて飲まないスタイルのことで、従来の「飲めない」「アルコール飲料の味が苦手」といった非飲酒層とは明確に異なっています。

いわゆる、ノンアルバー(sober bar)も増えているようです。僕の中の常識では、盛り上がるためにはお酒が必要だと思っているのですが、完全にガラパゴス状態に陥っているなと感じます。
ブルックリンのノンアルコールバー

厚生労働省が取りまとめている「平成30年国民健康・栄養調査報告」によると、20代では「ほとんど飲まない」が28.0%、「飲まない(飲めない)」が27.8%、「やめた」が1%となっており、既に日頃アルコールを口にしない人たちが過半数(56.8%)となっています。この傾向は30代でも同様に見られます。
飲酒習慣がある(週に3日、1合以上飲む)層となると、20代では7.9%、30代では17.4%に留まっています。
飲酒層の中で、日本酒を嗜む人は、更にごく僅かであると想像されます。

「晩酌」は過去の習慣になってしまうのでしょうか。

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(ノンアルバーで提供される健康飲料)

若い世代には、非日常の日本酒の提案を

前述の特徴だけみると、若者の日本酒離れはどうにも止められそうもないような感覚がします。
ただ、「あえて飲まない層」は、皆が飲酒に否定的な考えを持っているわけではありません。
飲酒習慣は減少している一方で、20代、30代の方が1回に飲む量は、むしろ40代以上の層よりも多いというデータがでています。

日本酒というのは、これまでは生活と密接した日常であり、毎日のひとコマの風景でした。近い未来に消費の中心となる若者の価値観や飲酒動向を見るに、これからは、日本酒を飲むという行為自体が「特別な体験」であり、非日常になっていくのだと発想を変えていかなければならないと強く感じます。

ミレニアル世代は、共感を大切にすると言われます。日本酒からポジティブな豊かさを得ている人は、より素晴らしい仲間を呼び寄せてくれることでしょう。
また、ミレニアル世代は、自分のスタイル、価値観にあったものを志向するということも言われます。古来、酒蔵も、酒屋万流と呼ばれています。若い世代のひとりひとりに合った日本酒は、きっと見つかると思います。

日本酒を「特別な体験」ととらえる未来の飲み手の皆さまに対して、一期一会の精神で、記憶に残る一杯を体験していただくにはどうしたらよいのか、それを考え続けることも、蔵元冥利、造り手冥利に尽きる高く壮大なテーマではないかと思うのです。

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