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Hello, Mister 第3話【原作】

本日のお話

本日のお話はこちらの第3話の内容となります。

第3話

「ごめんください」
フィズが訪れたのはアダムスベーカリーだった

「あ!フィズおじさん!」
フィズを出迎えたのは健気に働くリドだった

「ああ、町長さん。今日は何をお求めで?」
奥からジルも顔を出した。

「いえ、実は今日はリド少年に用がありまして」

「え、ぼくに?」

「君が、リド・コリンズかい?」

「そうだよ。なに?おじさん、どうしたの?」

「今日は君用があるって言っただろう?」

奥からジルが言った
「リド、今日はもう上がっていいぞ。」

フィズはジルに礼儀正しくお辞儀した
「ありがとうございます。」

「良いってことよ。なんかよくわからねえが、訳ありなんだろ」


あの小さな丘に場所を変えてフィズは続けた

「これを、君に届けにきた」

フィズの手に握られていたのはあの宛先のない1通の手紙だった。
「なにこれ、手紙?」

「そうだ。私はある女性からこれを受け取った。
 その女性の名はリサ・コリンズ。リド、君のお母様だ」

リドが明らかに動揺するのがわかった
「そ、そんな。そんな訳ないよ。だって、僕とおじさんは最近知り合った訳だし...」

「私は郵便屋だ。確かに君とは接点がなかったが、3年前ほど前に頼まれたんだ。
 「この手紙をコリンズ家の子供に渡してほしい」と。でも、コリンズという家はどこを探しても見当たらなくてね。ずっと私の手元に置いてあった。
そして先日、君がリド・コリンズということを知った。」

「.....今更、なんの手紙?」

「中身は見ていないんだ。私はこれを君に届けるのが仕事だ。そのあとどうするかは、君が決めると良い。」

フィズはリドにその手紙を渡すと、ゆっくりとその場を離れた
渡されたその手紙をリドはすぐには開けなかった。

翌日、フィズはいつもの場所で町を眺めていた

「おじさん。手紙、ありがとう」
声をかけてきたのはリドだった

「中身、読んだのかい?」

「うん。留守の間、エマをよろしくって。あと、愛してるって」

フィズはそれを聞くと何かに気づいた
「そうか。やはり君もあの時の事故でご両親を...」

「ずるいよね。一方的にさ、言うだけ言って、勝手だよね」

フィズには返す言葉がなかった。

「僕だって、お話ししたいよ。」
大粒の涙が、リドの目からこぼれ落ちた

「パパとママに会いたいよ。おじさん。」

フィズは何も言わず、そっとリドを抱きしめた
フィズの胸の中でリドは泣いた。12歳の少年らしく、大きな声を上げてたくさん泣いた。
しばらくするとフィズはゆっくりとリドに語りかけた。
「リド、私にもね昔子供がいたんだ。ちょうど今の君くらいの年だった。
私が今の会社を立ち上げたばかりのある日、ある豪華客船の処女航海が予定された。その船は郵便船でもあってね。私は処女航海の招待を受けたんだ。
しかし、その頃数日間も会社をあける余裕がなかった私は妻と息子にだけ、その招待を受けさせたんだ。
妻と息子はそれからまだ私の元には帰ってこない。
たくさん恨んだよ。命よりも大切な2人より仕事を優先してしまった自分をね。
私だって信じられなかった。2人が帰ってこないなんて。きっとまたどこかで2人にまた会えるんじゃないかと、そう思った。まだどこかで生きていて、私宛に手紙を送って来てくれるかもしれない。そうしたら、この町で一番最初にそして確実にその手紙を受け取れる。だから私は、この町で郵便屋としてここにいるのさ。妻と息子が愛したこの町を見守りながらね」

フィズは優しくポロポロと零れ落ちるリドの涙を拭いながら言った。

「私も寂しい。今の君の気持ちが痛いほどよくわかる。でも、だからこそ残された 私たちには届けないといけない気持ちがあるんじゃないかい?」

リドは止まらない涙をこぼしながらフィズの言葉に応えた
「届けないといけない気持ち?」

「リド、前にここで手紙を書いてみると良いと勧めたのを、覚えているかい?」
「うん。覚えてるよ」
「書いてみると良い。君のパパとママへ」
「でも、書いたってもうパパとママは」
「大丈夫。このバートン郵便社のフィズ・バートンに任せなさい。
 私を信じて。今、君の心にあるその気持ちを、言葉にしてみなさい。
 ちゃんと宛先も書くんだよ。わかったね?」

「....うん。」

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リドはその夜、その丘でずっと月を見上げていた
遠く離れたところからその姿を猫はずっと見守っていた


フィズはその夜、家で暖炉に火を灯しながら昔のことを思い返していた。

「パパ!バラには想いを伝える力があるって本当?」
帰宅したフィズに嬉しそうに少年は問いかけた
「ジェームス。なんだい急に?なんの話をしてるんだ?」
少年はフィズの息子。ジェームス・バートンだった。
「ママが言ってたんだよ!パパが昔、ママに一緒に暮らして欲しいって言いながらバラの花束を贈ったって!」
「ジェ、ジェームス!!それ、ママが話したのか!?」
慌てるフィズにジェームスは更に喜んだ。
「あはは!パパ、顔が赤いよ?」
「待ちなさいジェームス!」
「ママ〜!パパが照れてるよー!」
「ジュリア!なんでそんなこと話したんだ!」
キッチンで料理をしていたフィズの妻ジュリアは嬉しそうに応えた。
「あら、ごめんなさい貴方。だってとっても嬉しい思い出だったんだもの」

猫がにゃあと鳴いた。
その鳴き声にふとフィズは思い出をしまい込んだ。
自分しかいない家。聞こえるのは暖炉で燃える木が弾ける音だけだった。

自分を心配してかいつの間にかそばにいてくれた猫にフィズは優しく話しかけた。
「おっと、いけない。こんな夜更けに考え事はするものではないな。今日はもう寝よう」

翌日、リドは丘の上に手紙を持ってやってきた

「フィズおじさん。手紙、書いたよ。」
「そうか。ではしっかり封をしなくては」
フィズはロウを溶かし、リドの手紙に垂らした。
そしてその手紙に、バラ柄のシーリングスタンプを押した。
「どうやって送るの?」
「送るんじゃない。届けるんだ」

そう言って、フィズはリドに耳打ちをした
あの小さな丘の
あの街灯の下にリドは立っていた。手紙を持って。

一本のマッチを擦って、リドは手紙の端っこに火を灯した。
火は少しずつ少しずつ、リドの手紙を消していった。

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お母さんとお父さんへ

お母さんとお父さんが死んじゃってから僕はエマと教会に暮らしてます。
教会には僕達みたいな仲間がたくさんいるんだ。
だから友達もたくさんできて楽しいよ。
シスターは僕がいたずらするといっつも怒るんだ。短気なんだよ。
でも、優しくて僕らを大切にしてくれるシスターが僕は好きなんだ。
エマも前よりたくさん、笑ってくれるようになったよ。
パン屋のジルおじさんも相変わらず無愛想だけど元気にしてる。ぼく、今ジルおじさんの所で働いてるんだ。毎日アダムスベーカリーのパンが食べれるんだ。羨ましいでしょ!
フィズさんって人とも仲良くなった。フィズさんは郵便屋さんで町長さんなんだ。いつも猫と一緒にいて、その猫を「ミスター」って呼んでるんだよ。変だよね。
エマも僕も元気だよ。元気いっぱいさ!
お母さん、お父さん。僕12になったんだ。もう大人さ。
エマのことだって僕がちゃんと面倒見るよ。大丈夫、だから安心して。

でも本当は
さみしいよ、お母さん。遊びたいよ、お父さん。
一緒にいてほしいよ。会いたいよ。
たくさんお話ししたい。僕の話を聞いて「すごいね」って頭を撫でてほしいよ。
もう一度だけでいいから、涙を流す僕を抱きしめてほしいよ。

また、泣いちゃうかもしれない
寂しさに負けちゃうかもしれない
きっとエマも、僕と同じ気持ちだと思う。
でも、僕はお兄ちゃんだから、エマを支えてあげるんだ。
そしたら、その時はまた偉いねって言ってキスしてよ。
またお手紙書くからさ、天国で僕達のことを見守っていてね。
愛してるよ。

リド

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リドの両親、リサ・コリンズ、ジョン・コリンズの元へ届きますようにと、フィズは祈った。
そしてフィズは自分の家族も同時に想いながら溢れ出る涙をこらえて静かに言った。

「いいかいミスター。「愛」というものを感じる時、自分が笑顔とは限らない。涙を流しているかも知れない。
会えなくて悲しい、一緒にいれなくて寂しい。それだって愛している証だ。
『悲しい』と感じられることを誇りに思いなさい。
もしこの先、悲しいことがあってもこのことを忘れないでほしい。
ミスター。約束だ。」

つづく。

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