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自転車で夜のドライブ 「スタバは今日も暖かい」

夕方から図書館に行きました。
いつもと違う道を通ることにした。

川沿いの道に出た。

このまま、まっすぐ進むと
どこにたどり着くのかな?

見慣れない景色を楽しみながら自転車をこいだ。方向としては図書館に向かっている。だいたい合ってるけど、ちょっと違う。ちょっと不安。

まっすぐ進むと見たことのある道に出た。いつもは素通りする脇道から僕は大通りに出た。知ってる景色だけど見る角度が違うから不思議な感覚になった。

図書館に着いて本を借りた。

さっきの道の続きが気になったので戻った。このまま川沿いを直進すると、どこにたどり着くのかな。夕焼け空を見ながら僕は自転車をこいだ。

駅にたどり着いた。
見たことのある駅。

僕が生まれ育った場所だった。

子供の時に家族で食べに行った中華料理屋さんに行くことにした。道は覚えているけど建物が変化しているから違う土地に見えた。時刻は17時過ぎ。お店を見つけた。



店内に入ってメニューを見た。本当は注文する料理を決めていたけど、久しぶりだからメニューを確認した。

ギョウザ、鳥の唐揚げ、中華丼。

料理ができあがるまで店内のマンガを読んで過ごした。店員さんが不快に思わない程度にチラチラと店内を観察した。

家族で来た時にはいつも座敷に座っていた。土日の夜だったと思うけど、座敷はいつも空いていた。もしかしたら、先に座っていたお客さんが気を効かせて席移動してくれていたのかな。子供の僕は大人の気配りに気づかない。

靴を脱いで過ごす外食が好きだった。いろんな料理がテーブルに運ばれてきて、僕たちは好きな料理を食べていた。父が食べるのはいつもギョウザと中華丼だった。

母はラーメンを食べることが多かった。僕たち子供が家でインスタントラーメンを食べる時には全く食べなかったのに、お店ではラーメンを食べていた。

僕たち兄弟はジュースを飲みたかった。
おねだりするけど飲ませてくれなかった。

「ご飯を全部たべたら飲んでもよし!」

我が家のルールはシンプルだった。
ジュースを飲むことは滅多になかった。

お腹いっぱいになると眠たくなる僕たち子供は、座敷に横になることが多かった。父と母は許してくれなかった。

「行儀よくしなアカン!」

楽しいのか窮屈なのか分からなかったけど、僕はこの店で食べる中華料理が大好きだった。

考え事をしていると料理が運ばれてきた。

昔と変わらないお皿に盛り付けてある。どんぶりには龍のイラストが描かれている。いかにも中華屋さんぽい。レンゲを持って食べようとしたら違和感を覚えた。

「レンゲちっちゃ」

子供の時にはお子様スプーンで食べていたからレンゲの大きさは覚えていない。もっと大きいと思っていたけど小さく感じた。僕が大人になったのだろう。

中華丼の味は昔と違っていた。
ちょっと薄味。

鳥の唐揚げはお肉の部位が違った。
昔は脂身のあるモモ肉だった。

ギョウザは同じ味だった。

お腹いっぱいになって僕は店を出た。



むかし通った小学校と中学校を見に行った。

日が暮れて景色が見えにくいけど道は覚えている。建物は変わっているけど、方向は間違ってない。友達の実家や通った保育園にも行った。

夜 冬 寒い 暗い
すれ違う人の顔は見えない

「ここはどこだ?」

ひとりで自転車をこいでいると
変な気分になってきた。

中学校に着いた。暗くてあまり見えないけど、大きな変化はないみたい。僕が通っていた30年前と同じに見えた。

30年前か・・・

ずいぶんと時間が流れた。同級生は何をしているのだろう。僕は何をしているのだろう。どこに向かっているのだろう。どこかにたどり着けるのだろうか。

怖くなってきた。
違う世界に迷い込んだ気がした。



その後、不安な気持ちに押しつぶされそうになりながら、自転車をこいで帰ってきた。いつも通っているスタバのある駅に着いた。

「どうしよっかな。お腹いっぱいだけど、まっすぐ帰りたくないな」

自転車を止めて店に入った。

見たことのある店員さん。彼女は僕のことを覚えてくれている。僕も彼女のことを覚えている。並んでいるお客さんが注文を終えて僕の番になった。

「いつものアレでお願いします」

「アレですね、かしこまりました。今日はお食事はよろしいですか?」

「あっ、そっちじゃなくて。カプチーノでお願いします」


店員さんが覚えていたのは僕のAパターン。

本日のコーヒー + おやつ
ホット:ショートサイズ:マグカップ


今日はBパターンを注文した。

カプチーノ
ホット:ショートサイズ:マグカップ


店員さんは僕が何も言わなくても、お水とトレー(一番小さいサイズ)を用意してくれる。荷物入れも準備してくれる。

「次は当てにいきますね」

笑顔が可愛いいお姉さん。
名前も知らない僕を覚えてくれている。

いい店だな、スタバって。

スタッフ同士でお客さんの情報を共有できているんだな。ノートに書いてみんなで読み合いっこしてるのかな。僕のことを覚えてくれている店員さんは数人いる。マスクで顔が半分しか見えないけど覚えてるってスゴイ。どうやって覚えているんだろう。今度行ったら聞いてみよう。

カウンターに座ってカプチーノを飲んだ。

温かい店内
優しい照明
心地よい音楽

ボーッとしながら過ごしていると、ここが外国に感じてきた。ヨーロッパ。フランスかイタリア。

寒い夜道を歩いていると暖かそうな店を見つけて入った僕は、店員のお姉さんと軽く会話をする。温かいコーヒーを注文して席に座る。ひとくち、ふたくち飲んで冷えた体を温める。少し落ち着いた僕はコートのポケットからノートとペンを取り出す。頭に思いついたことを書いていく。店内の様子を描写して記憶する。あとで読み返しても今の気分が分かるように文字にする。パソコンを持ち歩いていると便利でいいな、と僕は思う。だけど、コートのポケットから取り出すのがパソコンっていうのは絵にならない。ボロボロのノートがいい。自分の分身が主人公の物語を書こう。いつか必ず書こう。

店の扉が空いて冬の空気が入ってきた。
僕の意識はスタバに戻ってきた。

カプチーノが少し冷めていた。

僕はいっきに飲み干した。
これ以上冷めないように。

荷物をカバンに入れて自転車に乗った。
夜のドライブは楽しいかもしれない。



おしまい