短編小説 | ちり紙交換車
(1)
一応エッセンシャルワーカーだ、と自分では思っている。以前は古新聞・古雑誌をメインに回収していた。しかし、近年では、わざわざ新聞を講読する人、ましてや雑誌を購入する人は激減した。当然、私の仕事も激減した。
全盛期には、週数回、団地などを中心に回っていたものである。しかし、現在では、1ヶ月に一度程度にまでなってしまった。そのうち、私の仕事はなくなってしまうだろう。
(2)
その日、私は久し振りに仕事に出掛けた。
「古新聞・古雑誌、なんでも新しいトイレットペーパー🧻とお取り替えしております」
昔のままのエンドレステープを流しながら、普段通り巡回していた。少ないながらも、まだ、新聞を玄関前に置いている家庭がある。お得意様だから、私は紐で縛られた新聞の束を軽トラの荷台にのせて、トイレットペーパー🧻を一つ置いて立ち去ろうとした。
(3)
「あの~、さっき「何でも」交換してくれると聞きました。本当ですか?」
そう尋ねたのは、白髪の老婆👩🦳だった。
「はい、回収できるものなら、何でも回収させて頂いております」と私は答えた。
「あの~、私を回収していただけませんか?」
「えっ、あなたを、ですか?」
「私はこの家の不要品なのです。何もできることはありません。雀の涙の年金だけで暮らしています」
「そんなことおっしゃらないで下さい。今まで、懸命に生きてこられたわけでしょう?」
「最近、就職した息子が戻って参りまして。リモートワークだから、会社の近くに住む必要がなくなって。このご時世、お給料も少なくて、アパートを引き払って、私のところへ舞い戻ってきました」
「あなたはなにも悪くありません。なにもしていなくても、楽しく余生を送ればいいではありませんか?」
「そうは言ってもねぇ~」
(4)
私はこれは新しい仕事になると思った。「不要人物引き取り業務」を始めることにした。
「古新聞・古雑誌、古婆さん、古爺さん、ご不要なった物も人も、何でも新しいトイレットペーパー🧻とお取り替えしております... ...」
「あっ、この前のお母さん!」
「今日は引き取ってもらえるんですね。トイレットペーパー🧻は役に立つ物ですから、息子も喜ぶと思います」
「そうだといいですね」
今日も私の軽トラの荷台には、数多くのおじいさん👨🦳、おばあさん👩🦳が載っている。
最初の頃は、自責の念をもったものだが、これだけの需要があるのだ、とプライドをもつようになった。私は超エッセンシャルワーカーなのだから。
おしまい
フィクションです。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします