見出し画像

言語学を学ぶ⑧ | 齋藤秀三郎「熟語本位 英和中辭典」(idiomology)

 シリーズ「言語学を学ぶ」。今回は8回目。英語の達人、齋藤秀三郎を取り上げる。

(1) トリビア的な話

 すべての人が言語学に興味があるとは限らないと思うので、今回はトリビア的なことから書こうと思います。
 世界的な指揮者、「小澤征爾」さんを知らない方はいないと思いますが、その小澤征爾さんが師事したのが、指揮者・チェロ奏者「齋藤秀雄」です。
 
 今回の記事で紹介したい「齋藤秀三郎」は「齋藤秀雄」のお父様にあたります。だからというわけではありませんが、齋藤秀雄に師事した小澤征爾さんの中にも、ひょっとしたら英語学者・齋藤秀三郎の思想やメソッドが反映されているかもしれません。


(2) 齋藤秀三郎とは?

 齋藤秀三郎については、斎藤兆史(著)「英語達人列伝」及び「英語達人塾」(ともに中公新書)で紹介されている。

齋藤秀三郎(1866 ~ 1929) 
英語学者。仙台藩士の長男として仙台に生まれ、5歳で藩の英学校・辛未館に入学、さらに宮城英語学校で学んだのち、東京大学予備門を経て工部大学校に入学するが3年で中退、仙台に帰って私塾を開く。19歳で仙台英語学校を創設、さらに第二高等学校助教授、岐阜中学校教授、名古屋第一中学校教授、第一高等学校教授として英語を教え、1896年、神田に正則英語学校(現正則学園高等学校)を創設する。齋藤は、正則英語学校での教授のかたわら、自ら「イディオモロジー(idiomology)」と名づけた日英の熟語や慣用表現の比較研究を進め、また精力的な執筆活動を行なった。

斎藤兆史「英語達人塾」
中公新書、p40

(3) 接続詞「for」と「because」の使い分け。

 孫引きになるが、齋藤秀三郎『実用英文典』では、for と because の違いが次のように説明されているという(前掲書、pp.50-51)。日本語訳はあとで示す。

For . ⎯⎯  "Because" assigns a moral or physical cause. "For" assigns a logical reason. 

The river has risen, because it has rained much of late. 
It must have rained much of late, for the river is so high. 

"For" explains or accounts for what precedes; the consequence is always stated first. (Compare "As," above.) 

I am not able to begin the work at once, for I am about to start on a journey. 

For⎯⎯  because が心理的・物質的原因を挙げるときに用いられるのに対し、forは論理的な理由を挙げるときに用いられる。

川の水位が上がっている。「なぜならば」最近雨が降ったからだ。
最近雨がたくさん降ったに違いない。「それというのも」川の水位がとても高くなっているからだ。

Forは先に述べたことに対する説明や理由づけをする。結論がつねに先に述べられていることに注意。(上述のasと比較せよ。)

私はすぐに仕事に取りかかることができない。「なぜならば」旅に出るところだからだ。


一般的な英文法の参考書では、becauseは「理由」を表す「従属接続詞」であり、forは「判断の根拠」を表す「等位接続詞」である、というような説明がなされているが、それに比べると、例文が具体的であり説明も明快である。


(4) 齋藤秀三郎「熟語本位 英和中辭典」の序文(英文)を読んでみよう。

秀三郎の「熟語本位英和中辭典」には、序文が英語で書かれている。小さな文字で4ページにわたる英文である。
全文日本語に訳したいところだが、抄訳(拙訳)してみる。

 "But, gentlemen, it is never too late to mend.
しかし、紳士諸君、「あやまちて改むるにはばかることなかれ」。

Let us cry 'peccavi' and begin anew in the right way. 
懺悔しよう。そして正しく新たに始めよう。

The 'impregnable' fortress fell to science and method; neither can the English tongue be impregnable to a scientific method and a resolute will.
難攻不落の要塞は、科学と方法論になった。英語は科学的方法と断固たる意志があれば、難攻不落などではない。

Let us have the fact impressed on our minds, that the English language is made up of English words, and that they have got to be kneaded each in its turn." 

心に次の事実を刻もう。
英語という言語は、英単語から成り立つということ。
英単語はひとつひとつ順番に練り合わせていかなければならないこと。

 Yes, all English words must to be kneaded each in its turn, or else one's English will remain a lifelong imperfection.

そう、すべての英単語は、ひとつひとつ順番に練り合わさなければならない。さもないと、その人の英語は、一生、不完全なままになるだろう。

For the rest, I shall let the book speak for itself. 
あとは、著作物自身に語らしめるつもりだ。


(5) 結び

 実は以前、齋藤秀三郎の「熟語本位英和中辭典」のことは書いたことがある。

 中学生以来、いろいろな辞書を遍歴してきたが、この「熟語本位」ほど前置詞や基本動詞について詳しい説明がある辞書はない。
 大正14年に出版された辞書だが、英語を学ぶ者にとって、是非とも手元に置いておきたい一冊である。古くても良いものはやはり良い。新しければ良いというわけではない。

この記事が参加している募集

スキしてみて

学問への愛を語ろう

記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします