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日本文学を英語で読む③ | 横溝正史・犬神家の一族

「日本文学を英語で読む」シリーズの第3回目は、横溝正史「犬神家の一族」。

 テキストは、
日本語原文は角川文庫版、英訳は
Seishi Yokomizo, "The Inugami Curse" (Pushkin Press) translated by Yumiko Yamazaki を用いる。


横溝正史とは?


金田一耕助(架空のキャラクター)


「犬神家の一族」冒頭

(前掲書pp.5-6)


 信州財閥の一巨頭、犬神財閥の創始者、日本の生糸王といわれる犬神佐兵衛翁が、八十一歳の高齢をもって、信州那須湖畔にある本宅で永眠したのは、昭和二十✕年二月のことであった。

 In February 194_, Sahei Inugami -- one of the leading businessmen of the Shinshu region, the founder of the Inugami Group, and the so-called Silk King of Japan--died at his lakeside villa in Nasu at the venerable age of eighty-one. 

 犬神佐兵衛は立志伝中のひとである。佐兵衛翁の立志美談は、過去何十年間いろんな新聞や雑誌に掲載されて、ひろく世に喧伝されているが、それのいちばん詳しいのは翁の死後、犬神奉公回から発行された「犬神佐兵衛伝」である。

After his death, the rags-to-riches tale of this self-made man, already related over several decades in various newspapers and magazine articles, was published by the Inugami Foundation in its most detailed version to date. 

 それによると、幼にして孤児になった佐兵衛が信州那須湖畔に流れついたのは、十七の年であった。かれは自分の郷里を知らない。いったいどこの生まれなのか、両親がなんであったか、それすらもわきまえない。第一犬神という妙な姓からして、ほんとうのものかどうか明らかでない。

 According to this book, The Life of Sahei Inugami, Sahei was orphaned at a young age and drifted to the Lake Nasu region when he was seventeen. He had been born, who his parents were, or even whether his unusual surname, literally "dog god," had been inherited from his ancestors or conferred by someone with a fertile imagination. 


表現について

 特段文法的に難しい英語表現はないが、対訳で読んでみると、英訳では、多少原文の順番を入れかえている箇所がある。
 また「犬神という妙な姓」という原文は日本人なら読めばわかるが、外国人が読むとき、どのように妙なのかが分からないので
his unsual surname, literally "dog god"(彼の普通ではない名字、文字通り訳せば「犬の神」という意味)
と説明的に英語に訳されている。

 こういった工夫は、このあとに続く物語の中でも随所に見られる。
 
 ネタバレになってしまうので、詳細は書けないが、この推理小説において
「斧・琴・菊」(よき・こと・きく)がキーワードになっている。
 日本人なら「斧・琴・菊」が「良き事聞く」という掛詞(ダジャレ)になっていることがわかるが、外国人に伝えるには一工夫必要になる。


まとめ

 金田一耕助の物語なのに金田一を登場させないまま、この記事は終わる🤣。

 英語学習として、日本語と英語の両方で同じ作品を読むと学ぶことが多い。
 
 外国人に日本のことを伝えるためにも、日本文学を英語で読んでおくことは役立つだろう。

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