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連載小説⑯漂着ちゃん

 ナオミと、エヴァさんについて語ってから一頻りの時が流れた頃、私のもとへ一通の通知が届いた。収容所所長からの手紙だった。


拝啓

 遅ればせながら、『漂着ちゃん』の救助をしてくださり、ありがとうございました。
 お陰さまで、あなたが名付け親になったナオミも元気になったようですね。あなたとナオミとの間に、ヨブという子どもが誕生したことは、所長である私にとって、望外の喜びです。弥生王朝を復興する担い手として、期するところは非常に大きい。

 ところで、この町の掟では、妻帯者と未婚の女との恋愛は、固く禁じられています。この町を統括する立場にある私といえども、この掟を破ることはできません。

 しかしながら、私は、この収容所の所長である前に、ひとりの血の通った人間でもあります。
 あなたがナオミを愛する気持ちが純粋であることに疑いの余地はありません。しかし、それと同じかそれ以上に、あなたがエヴァを愛する気持ちにも、一滴のウソもないことも事実でしょう。

 そこで、私は特例として1日だけ、あなたとエヴァが再び会うことを許可したいと思っています。

 もちろん、あなたとエヴァ、二人の気持ちが何よりも大切であり、私は二人が再会することを求めているわけでも、強制したいわけでもありません。

 エヴァにも、この私の意向は伝えています。エヴァがあなたに会うことを望むならば、近いうちにあなたのもとへエヴァを送ります。その時までに、あなたの意思を確認すべく、この手紙を書きました。

 お手数ですが、あなたがエヴァと会う意思をお持ちならば、同封の「同意書」にサインしていただければ、と思っています。
 繰り返しますが、これはひとりの血の通った人間としての私の提案です。エヴァとあなたが1日だけ再会したとしても、特例として、所長としての私も、あなた方を掟破りとして裁くことはありません。

 熟考された上、ご検討して頂ければ、と存じます。余計なお世話かもしれないと思いつつ、エヴァがあなたを思う気持ちを忖度すると、やむにやまれぬ気持ちになりました。

 
草々
収容所所長


 私はこの手紙を読み終わったあと、ひとりきりで、エヴァと会うべきかどうか考えつづけた。

 気持ちとしては、私はエヴァにもう一度会ってみたい。しかし、私には既に、ナオミとヨブという家族がいる。どうすべきなのだろうか?


「あなた、なにかお悩みがあるのかしら」とナオミが私に語りかけた。

「いや、そんなんじゃないよ」

「あら、そうかしら。私のもとにもね、所長さんからこんな手紙が届いたのよ」

ナオミは私にナオミ宛の書簡を見せながら話しかけた。

「そうだったのか。君のもとへの同様の手紙が届いたのか。私がエヴァと、1日だけ再会することを認めるかどうかという…」

「私はね、あなたのことを信じてる。あなたとエヴァさんが再会したとしても、ヨブと私を棄てることはないと。あなたが、あなたと私の命の恩人であるエヴァと再会することを拒否する理由は何もありません。信じてるから…」

 私には、ナオミの心が痛かった。やはり、エヴァさんと再会することは控えておいたほうがいいのかもしれない。
 私の心は、ナオミへの思いとエヴァへの思いとの間を、何度も何度も揺れ動いた。


…つづく


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