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連載小説②漂着ちゃん

 
 いったいどれくらい眠ったのだろう?

 目が覚めると、目の前には老婆がいた。

「あぁ、起きましたか?ゆっくりできたようで良かったですね」

「はい、おかげさまでだいぶ疲れがとれました。で、あの女の子は今どこに?」

「あぁ、あの子は、とある収容所で眠らせていますよ」

「収容所というのは?」

「じゃあ、そろそろ、この地域で少女が川で発見されるようになった経緯をお話しましょうか。まぁ、その前に熱いお茶でもご用意いたしましょう」

「さぁ、こちらをどうぞ」

 私は差し出されたお茶を飲みながら老婆の話に耳を傾けた。


 この村の川にはじめて女の子が漂着するようになったのは、かれこれ5年くらい前のことでした。

 あなたと同じように、都会からここへやって来て、真冬の山で自殺をするために、あの獣道をまっすぐ進んでいった男がいました。喉が渇いて川に行き、水を飲もうとした時、女の子を発見したということです。おそらくこれもあなたと同じでしょうね。

 人間というものは不思議な生き物ですね。自らが強く生きたいという気持ちがある時には、命懸けで他の誰かの命を救いたいなんて思わない。けれども、死を覚悟した人間というものは、誰かを命懸けで救いたいという気持ちになるようですね。


 老婆には私の心が読めるのだろうか?まったくその通りのことを私は考えていた。

「それで、ここで発見される女の子というのは、どうしてこの地にたくさんいるのでしょう?こんなところに、女の子が一人でやってくるとは思えません。親なり、他の誰かと一緒にやって来るのでしょう?」

 老婆はニヤリと笑った。

「そうでしょうねぇ、こんなところに女の子が一人でやって来るなんて、ちょっと考えられません。上流に温泉があるわけでもありませんし」

「じゃあ、誰と一緒にやって来たのでしょう?あの川で発見された女の子たちは何を語っているのですか?今ではすっかり元気になった女の子もいるのでしょう?どうなんです?」

 老婆は一瞬戸惑うような笑みを浮かべた。ふぅ~と息を吐き出してから、再び語り始めた。

「ここで発見された女の子たちの言葉を理解できた者はいないんですよ」

「どういうことでしょう?理解出来ないとは?」

「文字通りの意味ですよ。女の子たちの言葉は私たちの言葉とはまったく違うのです」

「えっと、それは方言がひどいとか、そういうことでしょうか?」

「いえ、方言の違いという類いのものではありません。まるで外国語のように、私たちの言葉とは異なるのです」

「外国語なのですか?朝鮮語とか、中国語とか?」

「いえいえ、おそらく日本語でしょう。しかし、私たちの知らない日本語です」

「同じ日本語なのに、理解出来ないということがあるんですか?」
 
「あるようですよ、日本人にも理解出来ない日本語というものが…」

 私は考えた。自分より若い世代の女の子の会話がよくわからないということはある。しかし、理解不可能ということはないだろう。
 いったいどういうことなのだろうか?


つづく


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