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宇宙SF | Thermography

(1)ホメオスタシス

 地球温暖化が明らかになってからも、人類は生活レベルを落とすという選択はできず、二酸化炭素を削減することができなかった。
 経済発展という自ら招いた呪縛から、人類は逃れることが出来ないままだった。森林伐採や宅地造成は止まらず、よりよい生活を求める人類は、際限なく経済発展を求め続けた。
 今では、二酸化炭素をはじめとする温暖化ガスは、どんなに削減努力をしたとしても、森林の光合成による吸収速度を超えて増加するばかりであった。
 近年になって、個体生物における恒常性、いわゆるホメオスタシスは、地球そのものにも該当することが明らかとなった。
 ホメオスタシスとは何か?例えば人体を例にとってみよう。
 人間が暑さを感じたとき、汗をかく。汗をかけば、気化熱によって、人体にたまった熱は冷やされる。汗の中には、水分と塩分が含まれる。そうすると体内の塩分濃度が変化する。汗に含まれていた塩分と水分とをバランスよく摂取すればよいのだが、例えば水だけを大量に飲んでしまうと、体内の塩分濃度が下がる。体の中の塩分濃度を一定に保つためには、体外へ水を排出しなければ、元の塩分濃度に戻ることはない。すると汗が止まらなくなる。

(2)森林が吸収できないならば

 2030年に発見された「地球ホメオスタシス理論」とは、次のようなものである。

地球の「体温」は、二酸化炭素の濃度で決定される。

人類が存在しない状態ならば、動物による二酸化炭素放出と植物による光合成による二酸化炭素吸収量は「帳尻」が合っている。

人類による「人為的な」二酸化炭素放出が過多なとき、森林は二酸化炭素を吸収し尽くすことはできない。しかし「地球体」は、元の大気中の二酸化炭素濃度を一定に保とうとする。そのときに地球体が利用するのは「水分」である。

二酸化炭素は、水にわずかではあるが溶け込むことができる。そうすると、地球体は必然的に、大量の雨を降らせることになる。それでも、二酸化炭素吸収が追いつかないならば、よりたくさんの二酸化炭素を吸収するべく、北極や南極の「氷」を利用しようとする。
 一般的に言って、砂糖などの固体の溶解度は、温度が高ければ高いほど大きい。しかし、二酸化炭素のように気体が溶質の場合は、温度が低いほうが溶解度が大きく、二酸化炭素はより多く水に溶け込むことが出来るという。
 現に、北極の氷近くの川では、他の地域と比べて、大気中の二酸化炭素濃度が低いというエビデンスもある。

(3)地球エレベーター

 今や、北極や南極の氷をすべて使い果たしたとしても、地球の平均「体温」を押し下げることが出来ないことが明らかとなった。
 氷を作るためには、大量の電力を作らなければならないが、もはや、地球のエネルギーだけではまかないきれないという。
 今進められている計画は、以下のようなものである。

 大幅に改良されたカーボンナノチューブ製のロープで、地球と月を結びつける。さらに、そこを足掛かりにして、月と火星、火星と木星、木星と土星、土星と天王星、できれば海王星まで結びつける。
 巨大氷惑星と呼ばれる「天王星」あるいは「海王星」から、地球まで氷を運んで来ることができれば、地球温暖化を止めることが出来るのではないか?
 interplanetary elevator(惑星間エレベーター)の動力源は、宇宙空間に設置予定の太陽光パネルを利用することになっているが、果たして、太陽から遠く離れた星でとれだけの発電が可能なのかは、未知数だといわれている。

(4)geo-thermography

 現在、geo-thermography(地球体温計)の値は、産業革命以降、大幅に上昇し続けている。果たして、地球は元の体温を取り戻すことができるだろうか?

 そんなことを考えていたときに、私は自分が、体温計を脇に挟んだまま、眠りに落ちていたことに気がついた。全部、夢だったのだろうか?


[終]

フィクションです🪐

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