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櫟 茉莉花
2023年11月21日 11:30
【目次】第1章 MELANCHOLICな羊(1)ファミレスにて〜プロローグに代えて〜(2)ショールームにて(3)地獄の審問(4)釣堀(5)ドイツのピアノ(6)釣果(7)騙すこと、騙されること◉第1章のまとめ読みはこちらから(他サイト)第2章 NOSTALGICな羊(1)はじまりのノクターン(2)家族のノクターン(3)崩れゆくノクターン(4)凋落のノクターン(5)
2023年11月21日 11:31
(1)ファミレスにて〜プロローグに代えて〜「あのぉ、ブラインドを下ろして頂けますか?」 ファミレスの窓際の席で隣席から女性に声を掛けられた時、松本響はコーヒーをチビチビと飲んでいた。 嗜んでいた、とスマートな表現を用いたいのが本当のところだが、実際の行為は「味わう」という舌の快楽に比重は置かれておらず、また身体や脳の要求に応えた行動ですらなく、無為で機械的な「摂取作業」と化していたのだ。
2023年11月25日 10:00
(3)地獄の審問「次は……草薙君だ、やってみろ」「はい」 草薙清暙は、ピアノ専科に入社してまだ二ヶ月にも満たない新人だ。だが、新卒という意味ではない。年齢は二十代半ばで、少し前までは他社で営業をしていた男だ。 ピアノ専科には、調律学校からの新卒者が入社することはまずない。業界での評判が悪過ぎる為、批判を恐れた全国の調律学校は、ピアノ専科への就職斡旋を自重しているのだ。なので、現在の社員