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対話体小説集

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地の文を使わず、全編会話文だけで構成された物語のことを、対話体小説といいます。 代表的な作品として、マヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』や恩田陸の『Q&A』、小林泰三の『アリス殺し…
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#掌編小説

警部、お願いします!

【scene1】

「警部、お願いします!」
「これは、なかなか厄介なヤマだな」
「ということは、何か分かったのですか?」
「あぁ、幾つか興味深いことがな」
「……と言いますと?」
「先ず、これは明らかに単独犯、又は複数名による計画的、若しくは衝動的な犯行だ」
「なるほど。と言うことは……」
「そうだ。犯人は、おそらく内部関係者、或いは外部の人間だろう」
「だとすると、仰るとおり、厄介なヤマになり

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矛盾がままに予想して

「ねえ、今少しだけ、話出来る?」
「ええ、いいわよ」
「良かった、前から一度、君と話をしてみたかったんだ」
「で、何の話かしら?」
「それがね、特にこれといった議題はないんだけど」
「ふふ、変な人ね。矛盾していない?」
「どうかな? 矛盾の定義にもよるね」
「辻褄が合わない現象のことよ。例えば、話がしたいと言っておきながら、話題を提示出来ないようにね」
「いや、違うね。元々辻褄なんか

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「かもめのジョナサン」はロマンティストか否か?

「あなたの尊敬する人って誰?」
「そうだなぁ……尊敬とはちょっと違うし、しかも人じゃないけどね、昔からジョナサン・リビングストーン・シーガルに憧れてるよ」
「人じゃないって、何なの、それ?」
「お前、『かもめのジョナサン』ぐらい、知らないと恥ずかしいぞ」
「なにその言い方……確かに読んだことはないし、『かもめのジョナサン』ってタイトルぐらいしか知らないけどね、ちょっと読んだことあるってだけ

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クラムボンは笑ったよ

——ということでして、本日は賢治童話の研究においては第一人者と言ってもよいでしょう、花巻文化大学の鈴木孝志教授、そして、先月に『クラムボンの意外な正体』という著書を出版されました、フリーライターの鶴田光義さん、両氏にお越し頂きました。お二方、どうぞよろしくお願いします。

「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あぁ、どうもどうも」



——では、早速ですが……鈴木教授の見解では、やはりクラ

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極限まで進化した生命は簡素化に向かう

「ねえ、知ってる? 私達の祖先にはね、“テ”というモノが付いていたんだって」
「何それ?」
「物の表面に触れたの」
「何のために?」
「痛みや温度を感じ取ったみたい」
「そんなもの……“テ”なんてものがなくても感じ取れるよ」
「そうね、いつもあなたを感じているわ」
「僕も。どうして“テ”は無くなったの?」
「“テ”だとね、人の心には触れられなかったそうよ」

「ねえ、知ってる? 

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