矛盾がままに予想して

「ねえ、今少しだけ、話出来る?」
「ええ、いいわよ」
「良かった、前から一度、君と話をしてみたかったんだ」
「で、何の話かしら?」
「それがね、特にこれといった議題はないんだけど」
「ふふ、変な人ね。矛盾していない?」
「どうかな? 矛盾の定義にもよるね」
「辻褄が合わない現象のことよ。例えば、話がしたいと言っておきながら、話題を提示出来ないようにね」
「いや、違うね。元々辻褄なんか合っていないんだ。後から合ってくるものなのさ。まだ合致に至らない時期、或いは、結果的に合わなかったケースのこと、それらを総じて矛盾って表現しているだけだよ」
「まず矛盾ありき……ね。でも、おかしいわ。この定義だと矛盾という意味に矛盾するパラドックスが発生して、論理が破綻する。帰納法的に解決しないわね」
「さぁね。でも大切なことは、現に今、こうして君と話をしているっていう事実だよ。辻褄が合ってきたってことさ」
「欺瞞に満ちた証明ね。いいわ、認めてあげる。で、話はおしまい?」
「いや、実は君に聞きたいことがあってね」
「あら、それだとさっきの証明が台無しじゃないの……まぁ、いいでしょう、聞きたいことって?」
「僕たちの今後って、どうなると予想してる?」
「私は予想をしないの。無意味よ」
「今を大切に、ってやつ?」
「違うわ。意義が見出せないだけよ。あなたは、予想をどう定義しているのかしら?」
「データの解析に基づく検証と考察、そこから得られる情報の分析、必然的に導かれる未来への方向性」
「つまり、データのない事象については、予想出来ないのね」
「そういうことになる」
「そうね、そこまでは同感」
「じゃあ、予想してみてよ」
「何を?」
「僕たちの未来」
「無理よ。データがないじゃない。あなたの発言、また矛盾してるわ」
「まだ辻褄が合ってないだけだよ」
「この先も合わないわ」
「はははっ、引っ掛かったね。それも予想だよ」
「あなたの論法って、インチキばかりね。でもユニークだわ。それは認める」
「で、そのデータからは何が予想出来る?」
「まだデータ不足ね。でも、願望は二つ生まれたわ」
「教えてくれる?」
「もう少し、あなたのデータが欲しい」
「嬉しいね。僕も君のこと、もっと知りたいな」
「誤解しないで」
「期待ならしてもいい?」
「それはあなたの自由」
「はいはい。で、もう一つの望みは?」
「あなたとは、別の肉体を所有したいわ」
「それは、叶わないと予想出来るね」
「いえ、予想じゃないわね。現実的に……いえ、医学的、物理的、論理的って言うべきかしら? とにかく、不可能なの」
「そうだね、僕たちはお互いに、ある人物の人格の一つに過ぎず、実体がない」
「私だけの身体が欲しいわ。このままだと、思考や感情の存在に矛盾を感じるの」
「それは、僕も時々感じるよ」
「ねぇ、いずれ辻褄が合ってくるのかしら?」
「データ不足だね。僕には予想できない」
「卑怯な回答」
「嫌われた?」
「かもね。でも、面白いわ」
「何か予想出来る?」
「あなたと惹かれ合うこと」
「また予想したね」
「いえ、これは予感よ」
「僕も同じ予感がする。矛盾してるけど」
「ねぇ、いずれ辻褄が合ってくるのかしら?」
「データ不足だね。僕には予想できない」