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『ソラニン』 浅野いにお

数年前のメモを整理していたら浅野いにおの『ソラニン』と『零落』を読もう、と書いてあった。両作品には11年の間があるが、『零落』が『ソラニン』新装版と2017年に同時刊行されたので、そのニュースをメモしていたのだと思う。
浅野いにおの初期作品を読んだ時、知人に一押しと公言した記憶があり、その懐かしさもてつだって今回『ソラニン』を読んでみた。とても上質なマンガだった。初期作品で感じた鮮烈さが再びきた!とまでいかなかったのは、自分の感受性が変わってしまったせいかもしれないけど、1冊のマンガとは思えない色々が詰まった素晴らしい作品。

大学の軽音サークルで出会って6年目、多摩川沿いに同棲する種田と芽衣子や、仲の良い友人たちのストーリー。
ヤングサンデーで連載されていたのは2005年から2006年、タイトルの由来はアジカンの2004年のアルバム『ソルファ』ということで、世の中はリーマンショックがまだ起きず、いざなみ景気真っ只中、それでも就職氷河期が続いているという時代。

『ソルファ』はアジカンのアルバムで一番よく聴いたなあ。懐かしい。モバイルアプリがまだまだの時代のせいか、マンガの中にスマホがほとんど出てこないのも、もはや隔世。
モラトリアムと呼ばれた大学が今や就職のための準備期間(機関?)になっているせいか、正規の職に就いていない状況で「これからどうしよう」と悩む姿にすら当時らしさがにじみ出ている。
ただ、リアルに描かれた街の風景、特に多摩川沿いの景観はほとんど変わってなさそう。時代のギャップをそれほど感じない。

浅野いにおマンガの風景は、日常の街の表現として本当にリアル。そんな街で暮らす根無し草のような主人公たちの生活がまたリアル。
幸福やまっとうな人生とは何かを求め、その答えを見つけたと思った途端、そこから定まった未来の予感を受け止めることに耐えられず、再び何?と迷ったり失ったり後悔したりするのもリアル。
面白おかしい演出なんかはマンガだし、感動しちゃえるところもマンガなのだけど、日常の重みと軽やかな動き(身体的にも内面的にも)の両方あるのが好きなところ。

なので、画像の装丁も大変好み。大空と電車と地面。河原の芝生に立つワンピース女子。白飛びぎみに淡く褪せた色味。『ソラニン』のビジュアルにぴったり。

この装丁は新装版のもの。追加収録されている2つの追加エピソードは、本編とはちょっと毛色が違っている。新装版を出すならこういう特典が必要だったのかも。本編とは別の人物が主人公(最初は芽衣子がオシャレになって別の彼氏を連れているのかと思った)の「はるよこい」は短くても話のオチは深いし、11年後の芽衣子たちの話は年をとった感が絶妙に出ていて、どちらもいいのだけど。

『ソラニン』が懐かしくリアルな東京の片隅の若者のマンガだとすると、『零落』はどういうマンガなのだろう。タイトルが不穏…。この新装版の巻末でも著者自身が『零落』に触れていたし、10年経た後の浅野いにお作品が楽しみ。

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