phrase of wonder

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『言葉というもの』『文学の楽しみ』

コミュニティFM「渋谷のラジオ」の番組「Book Reading Club」をされている宮崎智之さんが紹介していた吉田健一の本を知り、すぐ読んでみたいと思い借りて読んだ。 『吉田健一著作集 24巻』に収められた『言葉といふもの』では、言葉というものが(思考や生活のためだけでなく)人の精神にとって欠かせないものであり、人に「生命を与え続ける」ことを説いている。 明治以降の「西洋の基準に即して」書かれた形式的な「文学と称するもの」の価値を一蹴し、言葉と人とは「生命を分かつ」根源

    • 『熊の敷石』

      2000年の第124回芥川賞(ダブル受賞)の中編小説。 堀江敏幸作品では『おぱらばん』が好きで内容も思い出せるけど、『熊の敷石』はどういう内容だったか(そして熊の敷石とは何だったか)を思い出せず再読しました。 舞台はフランスのノルマンディー地方。パリから西へと向かい、現地で待ち合わせた友人ヤンが運転する車からの風景描写へと続く序盤。前に読んだときはその風景について痺れたのだ、と思い出し始めたものの、喉元ならぬ意識元まできている当時の感想が言葉にならないのがもどかしい。 そ

      • 『ソラニン』 浅野いにお

        数年前のメモを整理していたら浅野いにおの『ソラニン』と『零落』を読もう、と書いてあった。両作品には11年の間があるが、『零落』が『ソラニン』新装版と2017年に同時刊行されたので、そのニュースをメモしていたのだと思う。 浅野いにおの初期作品を読んだ時、知人に一押しと公言した記憶があり、その懐かしさもてつだって今回『ソラニン』を読んでみた。とても上質なマンガだった。初期作品で感じた鮮烈さが再びきた!とまでいかなかったのは、自分の感受性が変わってしまったせいかもしれないけど、1冊

        • 『サード・キッチン』

          Eテレ理想的本箱「人にやさしくなりたい時に読む本」で紹介されていた本。 物語は留学先のアメリカで孤独な日々をおくる19歳の尚美が、友人に誘われ、出身地やLGBTQ、経済格差など、あらゆる学生が集い運営する学生食堂「サードキッチン」に加入することで少しずつ成長していく青春小説。 勉強はできるけど、じぶんの気持ちをうまく英語で表現できないことで劣等感を感じ周りから孤立していく尚美の姿に、多くの読者が自分の姿と重ねてしまうはず。 それでもサードキッチンの仲間との交流を通して、

        『言葉というもの』『文学の楽しみ』

          『世の中と足並みがそろわない』

          ふかわさん! 愛すべき不器用芸人のユニークな日常。 昔は「不思議な人だなぁ〜」と思っていたけれど、 年齢を重ねたらどんどん親近感が沸いてきてる。 それが自分にとっていい変化だと感じられるし、 間違ってない(たぶん)と思える。 特に「わざわざの果実」の章は楽しかった! 社会に対する解像度が高いとすごく疲れると 思うけれど、考えて考えて自分と折り合いを つけていく姿勢がすごく信用できる。 脱力したのんびりした文章も好きだし、 ギラギラしていないのに元気になれる。 ふかわさ

          『世の中と足並みがそろわない』

          『定食屋「雑」』原田ひ香 商店街の古びた定食屋で働く、 生き方の異なるふたりの女性。 正義と後悔のあいだを往来しながらも 変わってゆく自分を受け入れながら 前を向きつづける彼女たちの大きな勇気に 胸がいっぱいになる一冊。

          『定食屋「雑」』原田ひ香 商店街の古びた定食屋で働く、 生き方の異なるふたりの女性。 正義と後悔のあいだを往来しながらも 変わってゆく自分を受け入れながら 前を向きつづける彼女たちの大きな勇気に 胸がいっぱいになる一冊。

          『ポスト戦後の知的状況』――あの人の語ることは社会をよくするのか

          ラジオがきっかけ TBSラジオで放送されている武田砂鉄の番組内の「金曜開店 砂鉄堂書店」で紹介されていた本を今回読んだ。この番組は講談社がスポンサーで、当コーナーはポッドキャストでも配信されている(2024年3月29日の回)。 タイトルにある「クリティック」は批評・批判または批評家・評論家と一般的に訳されるが(criticかcritiqueかによる)、著者の用いる「クリティック」は理性的な検証を行う知的営み・系譜を意味する。健全な批判には必ず求められるバックグラウンドだ

          『ポスト戦後の知的状況』――あの人の語ることは社会をよくするのか