マガジンのカバー画像

フィリピン物語

27
運営しているクリエイター

2021年1月の記事一覧

レアの場合⑨

マイコは17歳になったばかりだ。だから結婚はまだ早いにしても、恋人くらいはいてもおかしくはない。私だって15歳の時には恋人はいた。結婚はちゃんとした相手としてほしい。だけど日本人に騙されるくらいなら、日本で働きたいフィリピン人と結婚して、いくらかお金をもらってもいいんじゃないか。それに本当にお互いに好意を持ってそういう関係になれば偽装ではない。

マイコは中学を卒業してどこかの工場で働いていたがす

もっとみる

レアの場合⑧

何もかもが嫌になる。日本に来れば仕事もして、それなりに楽な生活ができると思っていた。たくさんお金を稼げば、ファミリーも喜ぶと思っていた。でも食べていくのにやっとだったし、マイコは相変わらず陰気な顔をしていて私を助けてはくれない。こんなはずではなかった。私はもっとマシな人生を送るはずだった。どこでまちがってしまったのだろう?

同じ店で働く女たちも、みんな似たり寄ったりの境遇だった。タレントで日本に

もっとみる

レアの場合⑦

アキヤマから紹介してもらったフィリピンパブは小さな店だったが、結構お客は入っていた。ほとんどが常連客で、近所の自営業の人が多かった。以前は若いタレントが3カ月おきに入れ替わっていたそうだが、今では日本人と結婚しているフィリピン人女性が3人いた。週に何回かやって来る中国人も何人かいた。オーナーはハヤシという男性だったが、ほとんど店には現れず、ハヤシの妻だというフィリピン人のダイアナが仕切っていた。

もっとみる

レアの場合⑥

弁当工場での仕事はきつかった。1日8時間、残業2時間、ほとんど立ちっぱなしの作業だった。夜勤もあった。しかし思ったほどの収入にはならなかった。タレントとして働いていた頃に比べると、なんでこんなに働いているのにこれしかもらえないんだという感じだった。しかも、来日費用などが借金としてされていたので、毎月の給料から引かれた。それにアパート代が引かれると手元に残るのは5万円程度だった。

ジェイソンにもお

もっとみる

レアの場合⑤

ジェイソンの一番上の姉はアメリカ人と結婚していてアメリカにいた。この家もその姉が両親に買ってあげたものだった。ジェイソンは3人きょうだいの末っ子で、すぐ上の姉は結婚して家を出ていたが、ジェイソンのいとこたちが何人か町から近いこの家に下宿をして、仕事に通っていた。

私も早く仕事に戻りたかったけど、ナイトクラブは日本に働きに行けなくなった若いタレントたちで溢れかえっていて私の居場所はもうなかった。そ

もっとみる

レアの場合④

両親は驚いたけど、すでに妊娠していることを告げると渋々結婚を認めてくれた。いろいろと手続きはたいへんだったけど、知り合いの知り合いのエージェントに頼み、在留資格まで取って50万円だと言われ、ヤマモトが払った。

ヤマモトは2週間ほど私の田舎に滞在し、日本に帰っていった。それから毎月、お金も送ってくれた。マイコが生まれると会いに来てくれた。マイコという名前はヤマモトがつけた。

早く3人で日本で暮ら

もっとみる

レアの場合③

私は店では、メイと呼ばれていた。本名はレアだけど、私は日本ではメイだった。半年はあっという間だった。お客さんからお尻や胸を触られることは日常茶飯事で時には酔っ払ったお客さんからしつこく絡まられたりすることもあったけど、おおむね楽しかった。小さなアパートの一室に同じ店の女の子と同居し、店までは店長が送り迎えしてくれ、夕飯も店でまかないを食べさせてもらっていたので、生活費はほとんどかからなかった。給料

もっとみる

レアの場合②

面接会場にはたくさんの女の子が待っていた。私と姉はいとこの服を借りて行った。交通費は姉が貯めたお金を使った。でも両親には言わずに行った。だいたいどんな仕事なのかはわかっていたし、すんなり両親が許してくれるとは思わなかった。まともに子供たちを養えないくせに、道理ばかりを厳しく説く父親にはうんざりしていた。とにかく私はこんな生活が嫌だったし、ここから出て行きたかった。

面接は簡単だった。日本のナイト

もっとみる

レアの場合①

朝方、仕事から帰ると、マイコはいなかった。どこかに遊び行ったのかと気にもしなかったけれど、それからもマイコは家に帰って来なかった。

マイコが働いているという喫茶店の名前も場所も知らなかった。スマホも高いから持たせていなかった。ようやくマイコと仲のよかった前田真理子という女性に連絡がついたのは、マイコがいなくなって一週間後のことだった。

前田という女性は、マイコは自分自身の意思でここを出て行った

もっとみる

マイコの場合⑭

パパはママとのことは話さなかった。そして体の具合が悪くて入退院を繰り返していると言った。「マイコを助けてあげたいけれど、力にはなれない。今まで放っておいたこと、そしてこれからもきっと助けてあげられないこと、本当に申し訳ないと思っている。」と、パパは言った。

私はパパがママの言うようなひどい人だとは思えなかった。パパとママの間に何があったのかはわからないけど、今までママと暮らしてきてパパに同情する

もっとみる

マイコの場合⑬

何だか泣いたら少し気持ちが楽になったような気がした。顔を上げるとマリコも泣いていた。そして「マイコ、やっぱりあんた家を出た方がいい!」ときっぱり言った。

「この際だからはっきり言うけど、あんたはママを捨てた方がいい。このままあの人と一緒にいてもいいことなんてない。」そうだけど、じゃあ、どうすればいいのかなんてまったく思いつかなかった。

マリコの働いているNPOには、就職の斡旋も行っているという

もっとみる

マイコの場合⑫

それからもマイケルは時々、チャットをしてきた。最初のうちはそれなりに返信もしていたけど、そのうち愛してる、とか、君のことを考えて夜も眠れない、とか送ってくるようになった。会ったこともないのに、愛してるなんてよく言える、と少し気味が悪くなった。そしてビデオコールもしてきたが、話す気はなかったので出なかった。

マイケルとのやり取りをママは全部知っていたようで、なぜビデオコールに出ないのか、と詰め寄ら

もっとみる

マイコの場合⑪

普段は夕方まで寝ているママが、私が帰ったらもう起きていた。珍しく機嫌がいい。そして私に好きな人はいるのか、と聞いた。ママとまともに話をするのは本当に久しぶりだった。何年か前だったらきっと嬉しかったんだと思うんだけど、もう遅いよ。私は「いない」とだけ答えた。そしたらママは嬉しそうに、いい人を紹介してあげると言った。

ママの知り合いのフィリピン人の男性で22歳。フィリピンにいるからあとでビデオコール

もっとみる

マイコの場合⑩

日本に来てからママと私は一度もフィリピンに帰っていなかった。ママは時々、マニラのジャンポールとビデオコールをしていたけど、ジェイソンとはあまり話をしていないみたいだった。ジェイソンが別の女性と付き合っているということを誰かから聞いて大喧嘩になっていたけど、ジャンポールのために今でもお金は送っている。

ママはママで日曜日に時々、誰かと出かけていた。アパートの下まで車で迎えに来ていたが、私は顔をみた

もっとみる