マイコの場合⑫

それからもマイケルは時々、チャットをしてきた。最初のうちはそれなりに返信もしていたけど、そのうち愛してる、とか、君のことを考えて夜も眠れない、とか送ってくるようになった。会ったこともないのに、愛してるなんてよく言える、と少し気味が悪くなった。そしてビデオコールもしてきたが、話す気はなかったので出なかった。

マイケルとのやり取りをママは全部知っていたようで、なぜビデオコールに出ないのか、と詰め寄られた。どうしてもママは、マイケルと私をくっつけたいみたいだった。

久しぶりにマリコに会った時に、そんな話をしたら、マリコはものすごく真剣な顔になった。マリコの話では、日本人と結婚をすれば、日本の在留資格がもらえる。多くのフィリピン人がそうやって偽の結婚をして日本で働いているのだと言った。そして大抵の場合、フィリピン人は日本人にお金を払っている。日本国籍の子供の戸籍を売るフィリピン人母親をマリコは何人も見てきたと言った。

「マイコも日本国籍を取ったからね、もうちょっと経ったらちゃんと話すつもりだった。」と、マリコは申し訳なさそうに言った。結婚なんて考えたこともなかったけど、ママのことだからそういうこともあるのかもしれない。そういえばマイケルも日本で働きたいと言っていたっけ。マイケルが一度も会ったことのない私に愛しているなんていうのは、私と結婚して日本で働きたいからだったからだったのか。

マイケルをどうも思っていなかったし、気持悪いメッセージも送ってきていたので、ああ、そういうことだったのかと納得した。やっぱり私は誰からも愛してはもらえない存在なんだと思い知ったような気がした。私はそんなことは口には出さなかったけど、たぶん顔に出ていたんだと思う。

「マイコのことを大切にしてくれる人はちゃんといるからね。私だってマイコのことを大切に思っているよ。」を抱きしめてくれた。もう長いこと悲しい気持ちに慣れてしまって、涙を流すことも最近はなかったんだけど、マイコがギュっと抱きしめてくれたからかな、急に涙が溢れてきた。

たいしたことない、どうってことないって、何があっても思うようにしてた。だってその方が傷つかないから。でもそんなことを繰り返していくうちに、本当に何も感じなくなってしまったような感覚になっていたんだ。それは自分では強くなったと思っていたけど、ちがったみたい。ただごまかしていただけ。自分の気持ちにさえ嘘をついていたんだ。どうってことないなんてことはない。日本に来たこと、引っ越したこと、高校に行かなかったこと、全部、納得なんてしていない。ママもパパも、自分も大っ嫌い!そんな思いが一気に溢れてきたんだ。そしてマリコにしがみついて泣いた。自分でも驚くくらいの大声で泣いた。


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