レアの場合⑥

弁当工場での仕事はきつかった。1日8時間、残業2時間、ほとんど立ちっぱなしの作業だった。夜勤もあった。しかし思ったほどの収入にはならなかった。タレントとして働いていた頃に比べると、なんでこんなに働いているのにこれしかもらえないんだという感じだった。しかも、来日費用などが借金としてされていたので、毎月の給料から引かれた。それにアパート代が引かれると手元に残るのは5万円程度だった。

ジェイソンにもお金を送る約束で来日を許してもらっていた。ジャンポールの面倒をみるためにジェイソンは仕事を辞めていた。マイコを引き取りに行ったときに、両親にも毎月お金を送ると言ってしまった。日本に来ればまたたくさん稼げるようになると思っていたけれど、そんなことにはならなかった。せめて私一人だったならば、と何度も思った。

4年かけてようやく借金を全額返済し終わったが、それでも生活は楽にはならなかった。そもそも給料が安すぎやしないか。それにフィリピンの姉たちやいとこたちまで、やれ事故を起こしただの、病気になっただのと借金を申し込んできた。返済する気などないのは明らかだったけど、助けてと泣きつかれると断ることもできなかったので、いくらか送ったりしていたので、お金はまったく貯まらなかった。

ある時、町に買い物に行った時に、声をかけられた。アキヤマと名乗るその男性はタガログ語も少し話した。一通り身の上話をしたら、もっと給料の高い仕事を紹介してあげると言った。どんな仕事か聞いたら、タレントだと言った。今はフィリピンから若い女の子が入ってこないのでどこの店でもタレントは足りなく困っているから、たくさん稼げると言った。また以前のように稼げるようになるかもしれない。少し希望が見えてきた。

そんな時、アパートの同室のジャネットと言い争いをした。私は「今しかない!」と思った。前から細かいことをいろいろうるさく言ってくるこの女のことは気に入らなかった。いろんなことが限界だった。だからもうここは出ていく。そしてもっと給料のいいところで働くのだ。

アキヤマに電話をすると、すぐに話はまとまった。そして住むところも用意するからすぐにでも来てほしいと言われた。数日後、アキヤマはイラン人の男性を迎えに来させ、本当に身の回りのものだけを車に積み込んで引っ越した。マイコはまた泣いていた。いつまでも泣いていた。マイコが泣くと私は頭が痛くなるんだ。なんだってこの子は私を苦しめるんだろう。泣きたいのはこっちだ。


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