レアの場合⑨

マイコは17歳になったばかりだ。だから結婚はまだ早いにしても、恋人くらいはいてもおかしくはない。私だって15歳の時には恋人はいた。結婚はちゃんとした相手としてほしい。だけど日本人に騙されるくらいなら、日本で働きたいフィリピン人と結婚して、いくらかお金をもらってもいいんじゃないか。それに本当にお互いに好意を持ってそういう関係になれば偽装ではない。

マイコは中学を卒業してどこかの工場で働いていたがすぐに辞めてしまった。これからはマイコも働いて、少しは生活も楽になるかと思って新しいスマホを買ってしまったのに当てが外れ、また借金が増えた。

とにかくマイコの恋人選びだ。いとこが紹介してきた何人かとビデオコールをして、一番感じのよかったマイケルという大学生をマイコに紹介した。家も裕福そうだった。マイコにとってもいいことだ。きっとこれでみんな幸せになれる。

しかし、マイコは家を出て行った。今まで育ててやって、これからは私が楽をさせてもらう番だと思っていたのに。出て行くのなら、とっくに出ていけばよかったのに。私一人ならば、と何度も思った時にどっかに行ってくれればよかったのに。

前田真理子は、私が悪いと言っていた。深く考えずに周りを振り回す私がすべて悪いのだと言った。私が悪い?ヤマモトと別れたのは、ヤマモトが私たちを捨てたからだ。マイコを日本に連れて来たのは、ファミリーのためだった。マイコのためでもあった。あのままフィリピンの山奥で暮らしていてもいいことなんて絶対になかったはずだ。確かに私だってもっといい暮らしがしたかった。でもそれを望むのは悪いことなのか?誰だって貧乏は嫌だし、誰だって誰かに愛されて生きていきたい。それが悪いことなのか?いや、悪くない。私は悪くない。悪いのはヤマモトだし、マイコだ。

勝手にすればいい。世の中はそんなに甘くはない。マイコが一人で生きていけるわけはない。そのうち音を上げて帰ってくるだろう。そうすれば少しは私の言うことも聞くようになるだろう。

もういろいろと考えるのはやめよう。考えたところで私の思うようなことになったことはない。タバコに火をつける。深く吸い込んで吐く。マイコのいなくなったアパートは広く感じた。今日は恋人をここに呼ぼう。ホテル代がかからずかえっていいかもしれない。(終)






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