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夏だし唐辛子について再考しよう。カシミールチリって結局何者なのか。

トウガラシは夏のフルーツ。

辛味はいわゆる五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)ではないというのは有名な話だ。カプサイシンやピペリンなどの物質が舌を刺す刺激であり、熱や痛みと同じ神経で感じているらしい。

味ではないとしてもその刺激は料理のおいしさを後押しし、いまやなくてはならない嗜好品だ。唐辛子はインド料理作りに欠かせないし、蕎麦を食べるときはやっぱり八幡屋礒五郎の七味唐辛子だ(長野県民の思想がはみ出ている)。

しかし過度に辛すぎると美味しさもよくわからなくなってくる。

”スパイシー”といってただ辛くするのではなく、バランスのとれたスパイス感が欲しい。辛味を担うスパイスはいくつかあるので、トウガラシと組み合わせることで相乗効果が得られる。

インド料理においてもトウガラシは無論大活躍しており各地で愛されている。インドが起源だと思っている人もたくさんいそうだ。

ここでは、これまでに何度も取り上げたトウガラシについて、基本的な情報を再確認しつつ、インド料理におけるトウガラシについておさらいしておきたい。

※この記事では、植物名としては「トウガラシ」、食べ物としては「唐辛子」を使う。

カレーZINE Vol.4にも収録したこちらの文章でもトウガラシの辛味とトリップについて考えている。

柳に風さんのトウガラシ考察は読む価値あり。


"自己責任"の激辛カレー

マジックスパイスで辛すぎるオプションを選んで手足が伸び続ける幻覚を見た、という症例を三人ほどから聞いた。

嘘だろ、と思っていた。

まあものは試しにと大阪で激辛カレーというのを食べてみた。料理によって適したレベルの辛さがあると思っているので、かつての激辛カレーブームのように「辛さ〇〇倍」というようなカレーを食べようとは普段思わない。雑誌記事で辛いものについて書くことになっていたのでまずは身体に刻み込んでみるかと思ったのだ。

メニューを見ると小悪魔、魔女、自己責任と辛さによってランクが分かれている。自己責任は流石に怖いので小悪魔と魔女のハーフを頼んでみた。小悪魔は甘みもあり、普通に言うところの辛口くらいの辛さ。小さなお肉が入っている、いわゆる甘辛系の大阪っぽい美味しいカレーだった。

魔女はそれよりも多少辛いが、想像の範疇は超えない程度ではあった。カレーもご飯もお代わり自由というシステムらしい。隣の人の真似をして、自己責任のカレーを少し食べてみたくなった。頼んでみると見た目からして少し赤黒くドロドロしている。唐辛子の香りが明らかにムンムンしていて粉っぽい。眺めてもしょうがないのでさっさと食べてみる。

食べ進めると最初のうちはなんともなく、旨味を感じるものの、辛さはそこまでない。唐辛子の香りがむせかえるほどすごいうえに粘度も明らかに高く、粉っぽくてドロドロしたものが舌に当たる。

これなら楽勝だと思いそのまま食べ続けてみると5口目位で急に身体に変化が訪れた。顔の内圧が上がるような感じがし、一気に汗が吹き出す。口の中の辛さも収まらずスプーンが止まってしまった。しかしこのままでは残すことになると思いそのままの勢いで食べ進めた。

カプサイシンは水には溶けずアルコールや脂肪に溶ける。水を飲んでも意味がない。辛さが収まらないため、卓上の消毒用アルコールを口に吹きかけようかと思ったくらいだ。突然動けなくなってしまったが何とか完食することができた。

口が動かず、全く話すことができなくなった。カウンター席に座っているのに目の前にあるコップの水が遠い。世界が静かになる。

無言のままとりあえず目の前にあったペコちゃんキャンディーをとって舐めると少しだけマシになった。辛いものを食べて足元がふらつくことって本当にあるんだと驚いた。幻覚を見たというのもあながち間違いではないかもとおもった。

最近激辛ポテチで救急搬送された高校生のニュースがあった。カプサイシンに幻覚作用はないのだが、摂取するとアドレナリンが分泌され、過剰になると高血圧や動悸などの症状が出るという。


辛味の種類

ここで、スパイスの役割について改めてふりかえってみよう。スパイスには味もあるが、調味するものではない。スパイスの役割は大きくわけて四つ。香りつけ、色つけ、辛味つけ、臭み消しである。そのうち辛味を担うスパイスは唐辛子以外にも以下のようなものがある。辛味は刺激だ。

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