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知られざるインド唐辛子の魅力〜10品種食べ比べ〜

柳に風と申します。唐辛子が好きです。

と言うと大抵、おっ、真っ赤な看板のタンメン屋か?、髑髏ラベルの死のソースか?という空気になるんですが、残念ながら今回はそういう話ではありません。
もう少し別な角度から、というか180°逆の角度から、「辛くない唐辛子」の魅力に迫ります。あと色々な唐辛子を食べ比べします。

唐辛子とは何ぞやという話がしばらく続くので、しゃらくせぇ!という人は食べ比べの項までとばしてください。


辛い唐辛子、辛くない唐辛子

そもそも辛くない唐辛子なんてあるんかい、と思うかもしれませんが、身近なところでいえば"獅子唐"や"ピーマン"も分類学上は唐辛子です。未成熟な状態で収穫するので緑色ですが、完熟すると赤くなります。
一般的に"唐辛子"というのはナス科トウガラシ属の植物の果実のことで、世界中に3,000品種以上存在するそうです。それだけ種類があればそりゃあ、辛い唐辛子も辛くない唐辛子もあります。

で、唐辛子の評価には「辛さ」や「色」といった指標が用いられます。
色の評価についてはあまり詳しくありませんが、"ASTAカラー値"という単位で表されます。赤ければ赤いほど良いんでしょうかね。

そして辛さについては、皆さんご存知"スコヴィル値(SHU)"という単位で表されます。唐辛子を、辛さを感じなくなる濃度まで砂糖水で薄めたときの"希釈倍率"が数値になっています。
まったく辛味がなければ0 SHU、"獅子唐"のアタリ(ハズレとも言う)で500 SHU、青唐辛子"ハリミルチ"が4,000 SHU、"鷹の爪"はおよそ50,000 SHUです。桁が増えてきましたね。辛い唐辛子で有名な"ハバネロ"は300,000 SHU、世界で最も辛いとされる"ペッパーX"という品種は3,180,000 SHUだそうです。少年漫画顔負けのインフレです。スカウターも壊れるでしょう。

とまあ、辛い唐辛子の世界も面白いんですが、今回はスコヴィル値でいうと30,000 SHU未満の、あまり辛くない唐辛子にスポットを当てます。何故かと言うと、美味しいからです。

皆さんはパスタや中華料理に入っている唐辛子、大抵は鷹の爪だと思いますが、そのまま齧ったことありますか?あれ、めっちゃ美味しいんです。香ばしい風味とコクが堪りません。ただ、同時にとても辛いんです。
唐辛子というのは実はグルタミン酸(要は旨味成分)が豊富で、糖度もトマト並みに高いです。
メキシコでは乾燥唐辛子から出汁をとります。日本人が昆布や椎茸でそうするように。
辛味が強烈すぎて気付きにくいだけで、実は凄い奴なんです。

で、単純に、辛味が少ない唐辛子を食べると、辛い唐辛子よりも相対的に旨味を強く感じます。なおかつ、辛くないのでたくさん料理に入れることが出来ます。当然その方が美味しくなります。単純です。
そしてそんな都合の良い唐辛子が、あるんです、インドに。

この後もこんな話が続きます。


インドと唐辛子

インド料理と唐辛子というのは切っても切れない関係にあります。
「いやいや待て待て、インドに唐辛子が伝わったのは15世紀大航海時代にコロンブスがアメリカ大陸を・・・」
という話は置いておいて、現在のインド料理に唐辛子は欠かせないものなのです。

世界の唐辛子生産量を見てみましょう。

世界の唐辛子(トウガラシ)類(乾)生産量 国別比較統計 (2018)
1 インド    1,808,011 (t)
2 中国     321,290 (t)
3 エチオピア  294,299 (t)
4 タイ     247,010 (t)
グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイト

圧倒的ですね、文字通りケタ違いです。
生の唐辛子は別として、インドは乾燥唐辛子大国です。

もちろん品種も様々あり、めちゃくちゃ辛いものからまったく辛くないものまで、インドに住む人々は地域ごと、家庭ごと、料理ごとにそれらを使い分けている。らしい。

そして、そんなインドに存在する辛くない唐辛子、2019年末にインドへ行って買ってきました。マーケットでズダ袋に詰められた山のような唐辛子を見たときの感動たるや。しかもべらぼうに安い。

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南インド、ケララ州のマーケット


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に並ぶ辛くない唐辛子!たまらん!


案の定この唐辛子、めっちゃ美味しかったです。無くなるのが嫌だったので種を取り出してプランターに撒きました。先日元気な新芽が顔を出したところです。

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これね、トウガラシの苗木。もとい、新芽。


と、この唐辛子を皮切りに完全に唐辛子沼に嵌ってしまい、なんやかんやあって私の手元には現在10種類の唐辛子があります。
ここまで来ると正直なにがなんだか…という状況なので、自分の中で整理も兼ねて、唐辛子10品種食べ比べ大会をやることにしました。

…マニアック過ぎるとは思いますが、ひとりふたりは読んでくださる方がいる、はず。


唐辛子食べ比べ、選手紹介


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さて、こんな感じで10品種、食べ比べてみます。
見た目からすでに多様性がすごいですね、なんと可愛らしいのでしょう。
ひとつひとつ見ていきます。品種は分からないものが多いんですが、産地や見た目の特徴からアタリはつけてみます。


エントリーNo.①
"鷹の爪" 日本産

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ご存じ鷹の爪。50,000 SHUです。日本ではこの"鷹の爪"という品種がメジャーすぎて、唐辛子全般を指して鷹の爪と呼ぶ人もいます。
ちなみに粉末唐辛子をカイエンペッパーと呼ぶことがありますが、あれも元々は"カイエン"という品種の唐辛子から来ています。


エントリーNo.②
品種不明(オレンジ) 日本産

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地元の産直で買いました。おそらく地元のおじいさんが育てているのでしょう。品種は不明です、すんません。鮮やかなオレンジ色でシワシワ。


エントリーNo.③
品種不明(小) インド産

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ケララ州コチの商店で買いました。品種は不明です、すんません。が、調べてみると"Guntur""Tadappally""Nalchetti"あたりがそれっぽいかな、と思います。そうであればおよそ20,000~35,000 SHUのはずです。鷹の爪くらいのサイズ感。


エントリーNo.④
"Kashmiri Chili" インド産

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きました本命馬、カシミリチリでございます。ケララ州のマーケットで購入。しわくちゃでデカイですね。色は深い赤色です。私が辛くない唐辛子として最初に知ったのがこのカシミリチリでした。パウダーにしたものであれば日本でも通販で手に入ると思います。スコヴィル値はちょっとようわからんのですが、辛味成分であるカプサイシンはほとんど含まれてないそうです。


エントリーNo.⑤
"Byadgi Chili" インド産

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いやこれもカシミリチリでは?と思うんですがどうやら違うみたいです。本物のカシミリチリは高価なのでその代用品になっている、と英語版wikiに書いてありました。明確な違いは分かりません、誰か教えてください。カルナタカ州で生産されており、ビャドギという町にちなんで名づけられたそう。これは静岡県浜松市のammikkalさんで購入しました。これはというか、⑤~⑨の唐辛子はammikkalさんで買いました。ありがとうございます。最高です。


エントリーNo.⑥
品種不明(ロング1) インド産

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これはタミル州産だそうです。ひょろながくてつやつやしています。ほかに特徴は…、う~む…。
"Sattur""Wonder hot"あたりがそれっぽいかな~、う~む………次いきましょう。


エントリーNo.⑦
品種不明(ロング2) インド産

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こちらもタミル州産。ひょろながくてつやつやしています。ほかに特徴は…、う~む…。
こっちが"Wonder hot"なのかな…。⑥と比べると果皮が薄い感じがします。で、⑥は円柱って感じでこれはペラペラな感じ。そんな感じ。


エントリーNo.⑧
"Gundu Chili 
(Ramnad Mundu)" インド産

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こちらは今回の対抗馬、グンドゥチリです。タミル州のラムナド地区で生産されていて、ラムナドムンドゥとも呼ばれるみたいですね。
カシミリチリの次に知った辛くないチリです。これをテンパリングしてラッサムに注いでいる動画を何かで見てよだれが止まらなくなったのを覚えています。


エントリーNo.⑨
"Gol Lal Mirch (
Dundicut)" パキスタン産

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かわいらしい。1円玉よりひとまわり小さいです。これはパキスタンのゴルラルミルチだと思われます。ダンディカットとも呼ばれるそう。ヒンディー語で、"lal"が赤、"mirch"が唐辛子です。"gol"はなんでしょう、誰か教えてください。
パキスタン南部のシンド州で生産が盛んだそうです。小さいですが、割ると種がミチミチに詰まってます。30,000~65,000 SHU。


エントリーNo.⑩
"朝天辣椒" 中国産

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最後は中国四川省の唐辛子です。通販で買いました。すこしピーマン感のあるフォルムですね。30,000~50,000 SHUくらいだそうです。中国では日本の鷹の爪みたいに"朝天"というのが唐辛子の総称として使われるらしい。


以上、我が家の唐辛子たちでした。
いよいよ実食です。



唐辛子食べ比べ、実食

今回は油で揚げ焼きにしてそのまま齧ります。

唐辛子の辛味成分であるカプサイシンは水にはほとんど溶けず、油、酢、アルコールに溶けやすい性質を持っています。それぞれ例を挙げると、ラー油、ピクルス、コーレーグースです。わかりやすい。
カプサイシンに関しても色々しゃべりたくなってきますが、長くなるのでやめます。興味がある人はググってみてください。

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こんな感じでどんどん揚げていきます。
油に辛味が移ってしまうので、1個揚げたら油を換えて鍋を洗います。

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はい、完成です。火の通り具合に差がある気がしますがまあ良し。
焦げる寸前くらいが香ばしさMAXで美味しいんですが、焦げたらダメです。

で、それぞれ食べた感想を述べていきます。
ここからは主観なので私の自己満足、自分のための記録になってしまいますが、よろしければお付き合いください。

①🇯🇵"鷹の爪"
香り:★★★★★
辛味:★★★★☆
旨味:★★★☆☆
甘味:★☆☆☆☆
慣れ親しんだ良い香り。でも単品では辛すぎる。でも旨い、でも辛い。

②🇯🇵品種不明(オレンジ)
香り:★☆☆☆☆
辛味:★★★★★
旨味:★☆☆☆☆
甘味:★☆☆☆☆
すごい、無味無臭。激しい辛味があるだけ。観賞用唐辛子は美味しくないと何かで見たが、見た目が綺麗だと何かを失うんでしょうか。ていうか観賞用唐辛子なんてあるんだ…。

③🇮🇳品種不明(小)
香り:★★★★☆
辛味:★★★☆☆
旨味:★★★☆☆
甘味:★☆☆☆☆
そこそこ辛い。美味しいんだけど鷹の爪と比べると味自体が薄い気がする。鷹の爪中々やるな。

④🇮🇳"Kashmiri Chili"
香り:★★★★☆
辛味:★★☆☆☆
旨味:★★★★☆
甘味:★★★☆☆
火を通す前はプルーンみたいな甘い匂い。加熱すると小松菜や青梗菜のような青臭い匂いになる。君も野菜なんだなあ。面白い。そして美味しい。肉厚なので食べ応えがある。

⑤🇮🇳"Byadgi Chili"
香り:★★★★☆
辛味:★☆☆☆☆
旨味:★★★★★
甘味:★★★★★
匂いはカシミリチリと同じでプルーン→小松菜。辛味はほとんど感じない。甘い。肉厚でスナック菓子食べてる気分。誇張は少ししかしていない。

⑥🇮🇳品種不明(ロング1)
香り:★★★★☆
辛味:★☆☆☆☆
旨味:★★★★★
甘味:★★★★☆
プルーンの匂いはするけど加熱しても青臭さは無い。これもわりと肉厚で美味しい。香ばしさと一緒にトマトっぽい風味がする。好き。

⑦🇮🇳品種不明(ロング2)
香り:★★★★★
辛味:★☆☆☆☆
旨味:★★★★★
甘味:★★★★☆
今回の大穴馬はコイツでした。凄い。④⑤⑥⑦はどれも美味しいのでもう好みの問題なんですが、私はこれ一番好き。香ばしい匂いと溢れる旨味。

⑧🇮🇳"Gundu Chili"
香り:★★★★☆
辛味:★★★★☆
旨味:★★★★☆
甘味:★★★☆☆
個体差もあると思うが意外と辛い。でもバランスよく美味しい感じ。テンパリングしてカレーに入れるならこれくらいの辛さでも良いのかも。

⑨🇵🇰"Gol Lal Mirch"
香り:★★★★★
辛味:★★☆☆☆
旨味:★★★★☆
甘味:★★☆☆☆
これ、揚げてる時にパンのような匂いがしました。なんやて!?あとは見た目ポイントが高い。

⑩🇨🇳"朝天辣椒"
香り:★★★★☆
辛味:★★★☆☆
旨味:★★★★☆
甘味:★★★★★
多分ほとんどの人はピンとこないと思いますが、みりんを加熱した時の独特な匂いがする。みたらしのタレから醤油を引いた感じ。他の唐辛子とは甘さのベクトルが違う。辛いけど食べられる。



おわり

ということで、ダークホースの⑦品種不明が一番好みでした。
こういうのは記録しておかないとすぐに忘れてしまいます、感覚を文字に変換する時点で解像度はかなり下がりますが。

ちなみに、同じ品種でも気候などの生育環境によって辛さには差が出ます。あと、よりストレスを与えたほうがより辛くなるそうです。酸をなめ、艱難苦を乗り越えてきた唐辛子たちがギネスに載るような辛さになるのでしょう。つらい。

で、今回はあくまでも私の手元にあるサンプルでの結果です。これが真理というわけではなく、あくまでも参考程度だと思ってください。なんの参考になるのかはわかりません。

唐辛子は美味いということが少しでも伝わったら幸いです。唐辛子はスパイスであり、具材です。


それでは皆さん、良い唐辛子ライフを。



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