【アルバム紹介】The Essential Perrey & Kingsley / Perry & Kingsley(1988)
久々に東京ディズニーランドに行ったので、しばし忘れていたこいつを御紹介。
「ペリキン」について
時は1965年。まだドラム・マシン(※)も発明されておらず、電子音楽とダンス・ミュージックが融合してEDMというジャンルができる前の時代。パソコンもなければ、当然にソフトシンセなんてものもありません。
※ドラムマシンとは、その名の通りドラムの音を鳴らす電子楽器。これがないと、EDMみたいなダンスっぽいビートにならない。
そんな時代に、Moog(※)を操る2人組、ジャン=ジャック・ペリーとガーション・キングスレイが結成したユニットが、"Perrey & Kingsley"、通称「ペリキン」です。レーベルはヴァンガード・レコード。
※ここでMoogとは、Moogシンセサイザーのことで、アメリカ人のロバート・モーグ博士が発明したアナログシンセのこと。超有名伝説シンセ。
1965年に結成したのち、1966年に"The In Sound from Way Out!"、翌1967年に"Kaleidoscopic Vibrations"の2枚のアルバムを出し、「ペリキン」自体はそのまま解散してしまいました。
ちなみに、Moogを使った楽曲をリリースしたのは、このペリキンが世界初と言われています。楽曲リリース当時、Moogシンセは世界でたった2台しか売れてなかったとか。一台200〜300万円ほどしたらしいですからそれもそのはずですね。それにしてもよくそのうち一台を買ったなお前ら。
メンバー
一応、メンバーのプロフィールも少し。
ペリーはフランス人で、元々シャンソン歌手の伴奏をしており、その縁でアメリカに渡ったそうです。ちなみに、本名はジャン・ルロワ。
対するキングスレイはドイツ出身のユダヤ人で、大戦中には迫害を逃れるためパレスチナへの亡命したのちアメリカへ移住。ブロードウェイのミュージカルのアレンジャー(編曲家)で、トニー賞にもノミネート経験があるようです。本名(ドイツ語)はゲッツ・グスタフ・クシンスキ。さすがに影も形もなさすぎてびっくり。
なお、解散後もペリーとキングスレイの2人はレーベルを変えつつ、2000年代に入っても精力的に新譜を出し続けていましたが、両名とも今はすでに鬼籍に入っています。
アルバム"The Essential Perrey & Kingsley"について
このアルバムは、1988年に出された、ペリキンとして活動していた時期の楽曲のベストアルバムです。楽曲の初出自体は1965〜1967年。
遊び心あふれる実験的な音楽が詰まったアルバムで、この時期にすでにこんなサウンドが生まれていたのかと驚かされます。サンプリングマシンも無い時代なので、全てテープの切り貼りで作ったそうで……恐ろしい根性ですね。
あと、なぜか曲名に宇宙関連の単語(UFOや火星など)が散りばめられているのも気になりますね。シンセサイザーや電子音楽に、何か未来めいたものを感じていたのでしょうか。
また、チャイコフスキーの「白鳥の湖」の編曲モノも収録されているなど、クラシックからの影響も随所に感じます。今日の電子音楽を聴いていると、過去からは断絶しているようにも感じられてしまいますが、黎明期を覗いてみると、きちんと歴史は繋がっていることがわかります。
収録曲紹介
さて、アルバムからいくつかお気に入りの曲を抜粋して御紹介。
まずは、01.「The Unidentified Flying Object」。意味は未確認飛行物体、つまりUFOですね。現代の音圧命の電子音楽とは違い、使われているのは素朴な音色。それでもしっかり曲として聴けるのがすごい。アルバム全編通してそうですが、コミカルな部分が見え隠れしつつも、かなり実験的な曲調です。
04.「Swan's Splashdown」も御紹介。イントロから思いもよらず突然に馴染みのメロディーに移る、チャイコフスキーの白鳥の湖のアレンジ曲です。カエルの鳴き声のような音も入っていたり、この曲もかなりコミカルでシュールな感じですね。あと気になるのは、それでもなお拭えない圧倒的ロシア感。テトリスのテーマ(コロベイニキ)もロシア感がすごいですし、ロシアの曲って、どう調理してもロシア味を隠せないんでしょうかね……話が脱線しました。
07.「Spooks In Space」は、騒がしいイントロに突然エスニックなメロディーが入ってくる謎曲。いや、全部謎曲なんですけどね。私はこのアルバムの中でこの曲が一番好きです。エモエスニックメロディーがたまらんです。そういえばこの曲も「宇宙」という単語が入っていますね。
13.「The Savers」は、0カロリーサイダーのCMに起用され、クリオ賞(世界最高峰の広告賞)も受賞した楽曲。後に紹介する20.「Baroque Hoedown」にも繋がる、手癖のようなメロディーを感じますね。
他にも、ヱビスビールで有名な、第三の男のテーマのアレンジ、18.「Third Man Theme」や22.「Carousel of the Planets」のような哀愁漂う良曲もたくさんあるのですが、もう一曲、詳しく御紹介しないといけない曲があるので、一旦こんなもんで。
20.「Baroque Hoedown」について
さて、私がこの記事を書くきっかけにもなった、20.「Baroque Hoedown」も御紹介しておきます。
この曲は、世界中のディズニーパークで行われているパレード(今は東京しかやっていませんが)、「エレクトリカルパレード」に採用されたことで有名です。
バロックについて
Baroque(バロック)とは、「歪んだ真珠」という意味のポルトガル語からきた言葉で、当初は流行していた曲線的な建築への悪口でしたが、そこからルネサンスの影響から脱した、17世紀ごろの芸術ムーブメント全体を指す言葉となりました。
音楽の世界でバロックといえば、バッハ。音楽室に掛かっている肖像画の常連で、クルクルのカツラが有名ですね。
カツラはどうでもいいんです。で、バッハの有名曲は例えばこんなの。
当時はピアノがまだ発明されていなかったため、チェンバロという楽器が使用されています。ピアノは、ハンマーが弦を叩いて音を出すのですが、チェンバロは弦を引っ掻いて音を出すため、キラキラした音色を奏でるのが特徴です。
このチェンバロの音色が"Baroque Hoedown"でも使用されています(Moogで出しているんだと思いますが)。確かにメロディーもどこかバロック風。
こんな風に、現代でも結構意外なところで、クラシックの面影を感じるものはたくさんあります。その辺もまた別記事にしたいと思います。
エレクトリカルパレードへの採用
この曲の近未来感が、ウォルト・ディズニー本人にウケたようで、カルフォルニア・アナハイムのディズニーランドにて1972年より行われた「メインストリート・エレクトリカルパレード」のテーマに採用されました。
この時、ペリキン本人には、パレードへの採用が知らされておらず、現地で聴いてびっくりしたという逸話は有名ですね。
改めてこの経緯を整理してから聴いてみると、「エレクトリカル」という名前や、あの特徴的な電飾を多用したフロート(山車)は、この曲から逆に着想を得たものだったんですかね。まあ、本当のところはわかりませんが。
パレードの世界展開とアレンジ、現在
その後、好評を博したメインストリート・エレクトリカルパレードは、多少のアレンジが加わりながら、世界中のディズニーパークへと展開されました。東京でも1985年から1995年まで「東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード」として公演されていましたね。
その後、2001年に東京にて「ドリームライツ」として再演されることになった際、グレゴリー・スミスの手によって、生楽器のフルオーケストラによる演奏をメインにした大幅編曲がなされ、現在に至ります。
編曲により、シンセも現代的な音色に変わり、フルオーケストラの迫力も相まって、よりダイナミックな曲調に変わっています。転調もしていますし、ペリキンの手癖的なテンポの揺れも修正されています。
なお、このドリームライツから、地面から生えているスピーカーから出る音(アンダーライナー)がパレードの進行とともに切り替わる方式が採用されていますが、その辺りはかなり驚きのシステムなので、また別記事にて御紹介しています。
〆の言葉
なんだか、軽いアルバム紹介のつもりが、アーティストの出自からバロック、ディズニーに至るまでかなり広範に触れてしまったので、長すぎる記事になってしまいましたね。
普通、こういう時は、記事を増やすためにも、皆さんの集中力のためにも、二分割して前後編に分けるべきなんでしょうが面倒なのでこれで許してくれ。
とにかく、今日はこれにて。
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