上野修トークイベント「スピノザと〈 私 〉のありか」(『フィルカル』Vol.8, No.3 刊行記念イベント)イベント趣意

『フィルカル』Vol.8, No.3 刊行記念イベントとして、スピノザ研究者の上野修さん(大阪大学名誉教授)をお招きし、下記イベントを開催します。
【ご予約はこちらから→ https://bb240324a.peatix.com/ 】


その内容を紹介する趣意文を公開します。

イベント趣意

スピノザ的〈私〉をめぐる問い

「私は思う、ゆえに私は存在する」(『方法序説』)と書いたデカルトが〈私〉を発 見して以来、〈私〉は考えるモノ=主体として哲学史のなかに現れました。
しかし、「いずこも同じデカルトの天下」だった17世紀、レインスブルフという郊外の村で、デカルト的な〈私〉への密かな抵抗が始まった。
それがスピノザが『エチカ』第2部に記した、人間精神についての考察でした。

スピノザは、「考える私」を抜きにして「精神」を考える。
「人間精神は身体の観念である」(『エチカ』第2部 定理19)という不可解な定式がそのことを示しています。
上野さんによれば、スピノザの「観念」は、考えられた対象ではありません。
むしろ、観念はそれ自体がひとつの記号のように、シニフィエ(モノ)でありシニフィアン(認識)なのです。
スピノザのこうした図式は、真理をめぐる問題(観念が事物と合致することはいかにして可能か)、心身問題(精神と身体はいかにしてひとつでありうるか)、はたまた主体・客体の分裂、対象化の暴力性などなど、デカルト的〈私〉に投げかけられてきた諸問題にさいなまれることはないでしょう。
そもそも、認識は主体と客体の関係を前提しないのですから。

しかし、ここでスピノザに問い返すことができます。
考える主体を抜きにして観念や認識を語るとき、認識する〈私〉は、果たしてどこにいるのでしょうか? 
考える主体がまったくいないとしたら、スピノザの認識論は「観客のいない劇場」のようなものなのでしょうか?

ラカンとデイヴィドソンを手がかりに

――あまり知られていないことですが、実は上野さんの研究キャリアは、まさに「スピノザ的主体の起源」を問うことから始まりました。
そして、そのよく知られた仕事のひとつである永井均的〈私〉の哲学への問題提起のなかで、上野さんは別のふたつの仕方で主体の起源を語っています。ひとつは、ジャック・ラカンの「大文字の他者」。
声・言語・シニフィアンがそこから到来する彼方であり、その呼びかけを通じて〈私〉という主体を開設する大文字の他者。
そして、このラカン的図式と重なるもうひとつのアイデア、すなわちドナルド・ディヴィドソンの「根元的解釈」。
デイヴィドソンによれば、言語を習得する幼児は、誰か(親なり兄姉なり)の発話を、世界で生じている事態と紐づけることで、発話の意味を解釈する(「三角測量」といいます)。
この根元的解釈という図式には、幼児が自分を「聞く主体」として出現させる、そのような地平を読みこむことができるでしょう。

ラカンとデイヴィドソンから上野さんが引き出すのは、「主体の開設」という根元的な出来事です。
それでは、スピノザは? 
スピノザ的な〈私〉というものを語ることはできるか? 
それはどこから、どんなふうに出現するのか? 
スピノザ・ラカン・デイヴィドソンという三人の思索を経巡りながら、この問いにじっくりと向かい合う。
それが今回のイベントのメインテーマになることでしょう。

(フィルカル編集部)

本イベントに関連する上野さんのお仕事

  • 「身体の観念あるいは精神―スピノザにおける精神とその認識の起源的定位」『カルテシアーナ』1981年, Vol. 3, 1–32頁。

  • 『スピノザの世界』講談社、2005年。

  • 「スピノザと真理」村上勝三(編)『真理の探究』知泉書館、2005年。

  • 永井均・入不二基義・上野修・青山拓央『〈私〉の哲学を哲学する』(春秋社、 2010/2022年)。

  • 『デカルト、ホッブズ、スピノザ―哲学する十七世紀』講談社、2011年〔『精神 の眼は論証そのもの』学樹書院、1999年の文庫化〕。

  • 「ホッブズとスピノザ―われわれは自分の外にいる」神崎繁・熊野純彦・鈴木泉 (編)『西洋哲学史 III』講談社、2012年。

  • 『哲学者たちのワンダーランド―様相の十七世紀』講談社、2013年。

  • 『スピノザ『神学政治論』を読む』筑摩書房、2014年〔『スピノザ― 「無神論者」 は宗教を肯定できるか』NHK出版、2006年の増補改訂版〕。

  • 『スピノザ全集』岩波書店、2022年~ 監訳〔翻訳担当:第3巻『エチカ』(既刊)、 第5巻『神、そして人間とその幸福についての短論文』(既刊)、第4巻所収『政治 論』(近刊)〕。

  • 「分析哲学とスピノザ?」『フィルカル』Vol. 8, No. 3, 2023, 88–101

※詳しくは「上野修教授 研究業績等一覧」『メタフュシカ』2017, 48, 3–11(https://ir.library. osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/67689/)。

なお、『スピノザ全集 第3巻 エチカ』、『スピノザの世界』、『フィルカル』(Vol. 8, No. 3)につきましては、上野先生のサイン本を販売いたします。
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