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腐敗がテーマのラテン音楽

こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。

本日は「墓の魚」の重要テーマである
「腐敗の芸術(VANITAS)」
についてお話していきたいと思います。

「この世の栄光も、命も、やがて腐り、
土に帰ってゆくものだ」
(フランドル絵画のテーマ)

「100年後にはみんな死者だ」
(スペインのことわざ)

こうした哲学を表現した芸術に
ヴァニタス絵画
というものがあります。

ヴァニタス絵画は、
財宝や食物の中に
墓地から拾ってきた様な
粗野な頭蓋骨を置き、

[この世の繁栄も永遠ではない。
世の栄光など虚しいものだ]

というテーマを描く写実画です。

ヴァニタス画は
16世紀の古い芸術ではありますが、
イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス・・・
要するに
ラテンや、南欧の世界の人々の精神に根付き、
近代でも画家達によって描かれています。
(あのピカソも、B・ビュッフェも、
ヴァニタス画を描いています)

「どんなに美しい花園にだって、日陰があるように
ムカデやゴミムシが這い回る
哀れな場所があるのだ」
(黒実音子「墓の魚」の作品
「ボティーガス墓地の一夜」より)

腐敗は、は、
この世のあらゆる物質が
受け入れなければならない
真実であり、
だからこその哲学であるのです。

私達は
華やかな喧噪や、に身を隠し、
そうした真実から目を逸らそうとしますが、
[腐敗]から逃れる事は出来ません。

泥棒も、教会の司教も、
死んでしまえば同じ土の中だ。
腐ってしまえば同じだ。

この
腐ってしまえば同じだ
という表現は、
シェイクスピアも劇の中で
墓堀りの道化や、ハムレットに
言わせている台詞です。

またキリスト教において
「腐敗」というものは、
[人間の罪]の象徴であり、
「犯した罪故の結果である」
と考えられていました。

しかし、ここで、
ある人は疑問を持つかもしれません。

泥棒も、教会の司教も、
死んでしまえば腐る・・
というのなら、
罪のある泥棒も、罪のない司教も、
なぜ[同じく腐る]
と考えられたのでしょうか?

また、
そもそもキリスト教が土葬なのは、

「いつか最後の審判がやってきた時に、
許された者達が復活し、
永遠の命を得る時に
肉体が必要」

とされる故のものなのに、
[その肉体が腐ってしまう事]
については
どう考えているのでしょうか?

この辺に、
キリスト教の深い哲学
があると私は解釈します。

誤解されがちですが、
キリスト教では

人間である以上、
全ての者は罪人である

と考えるのです。

むしろ[自分は罪人ではない]と考え、
他者の罪を責める様な者こそが
キリスト教においては
最も罪の重い罪人です。

「生まれた時から
一度も罪を犯していない者だけが、
この者に石を投げよ」
(
ヨハネによる福音書)

とイエスは、石を投げられた女性を庇い、
言ったと聖書には書かれていますが、
ここでも
キリスト教の原罪の哲学
を垣間見る事が出来ます。

つまり

他者を責められる者などいないであろう?
自分も罪人なのに。

というメッセージが
この説話には込められているのです。

よって、
キリスト教の司教であろうと、
泥棒であろうと、
同じ罪人。

[死ねば腐る]のです。

むしろこの腐敗こそが、
人間の[本質]であり、
[世界の真実]と芸術家達は考えます。

ちなみに、もう一つの疑問、
[最後の審判での復活]
に関してですが、
最後の審判で得られる肉体とは、
永遠の肉体・・・
すなわち
[霊の世界での肉体を得る事]
を意味していると
解釈される事が多いです。

現実の肉体により腐り、
虫達に喰い尽くされる醜さ(罪)の果てに
何があるか?
と考えた時、
やがては崩れ、
土に消えてゆく(浄化する)事で、
新しい肉体を得る
という
[罪の浄化と赦し]
を考える事も出来るのです。
その工程の中に複雑な
[腐敗と浄化の神学]
があるのでしょう。

さて、
ヴァニタス絵画だけでなく、
メメントモリ芸術、
ヴァド・モリの詩、
死の舞踏、
メキシコの死者の日、
近代のボードレールの詩
など、
腐敗の哲学
様々なヨーロッパの芸術作品
の中で顔を出します。

そして、私達ラテン楽団「墓の魚」の作品こそ、
そういった南欧ラテンの死生学の思想を
ユーモラスに引き継いだラテン音楽なのです。

日本ではなかなか紹介される事のない、
ラテン精神の一つ「腐敗の芸術」を、
ぜひ「墓の魚」の作品から
感じ取っていただけましたら幸いです♪


【1000視聴突破ありがとうございます♪】
「墓の魚」のラテン詩と、
メメントモリ曲の融合した
配信動画
「死んだ珪藻とマキシロポーダのミサ」
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