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悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達1

こんにちは。
「墓の魚」オーケストラ作曲家です。

ハロウィン🎃なので、
私の書いた地獄の物語(演劇の戯曲)
【悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達】
を少しずつ掲載していきます。

【悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達】
とは、
「墓の魚」ユニバースの一つの
ミュージカルです。

という訳で、曲も作られている劇なので
音楽動画
も挟みながら
以下、テキスト(読む戯曲)
掲載していきますね。


↓↓↓

■■■第 1 部■■■


主題歌


<カミナリがなっている>

<何処とも知れない暗闇の中で、
酒を飲みながらイスに座っている
悪魔グレイルメイル嬢>

**悪魔グレイルメイル嬢**
ああ、ろくでもない墓堀りが、
長い年月を生き、
百万を超える
小賢しい知恵を身につけ、
時として気取った言語で
会話をしてみたところで、
結局の所、
やはり墓堀りには違いないのだ。

むしろ、暇を持て余すものだから、
とんでもなく
残酷な遊戯に浸ってみたり、
しまいには何が残酷で、
何が祝福された行為なのかすら、
わからなくなる有様。

悪霊がいかに
悪賢い知恵を持っていると言ったって、
それが人間とを
決定的に分つものではあるまい。

人間と悪の蛇を決定的に分つものは、
結局の所、
この長い年月が作り出す
狂気だけではないか?

迷いが無い。
これほど恐ろしく、
残酷な事はないに違いない。

なぜなら、迷いが無いという事は、
救われるものも、救われない
という事だからだ。
救いが未来永劫無いという事だから。
迷いなどという愚行自体が、
短き命の者達の特権なのだ。

<軍人の姿をした男が通り過ぎる>

ああ、将軍!!
どこへ行こうというのです?
お待ちになって。

<グレイルメイル嬢、
通り過ぎようとした軍人を呼び止める>

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
(!! なんと、
これはやっかいな手合いに
見つかってしまったぞ。
適当に切り上げたいものだが。
人の皮をはいで、
そこに塩を塗り込むような女だ、これは。
長生きしすぎて、
もう半分イカレてるから
悪霊すらも相手にしないが、
だが、長生きなどすれば、
誰もがどこかのネジが狂ってくるものなのではないか?
贅をつくし過ぎて平和に喰われ、
腐っていった旧約の国のように。
だから人間共には
老いと、死というものがあるのだろう。
上手くすりゃ、奴らは楽園に行ける。
やれやれ、それこそが
神からの最大のプレゼントというやつだ!!)

これは、お嬢様。
気づきませんで。
実は今から、
ちょっとした野良仕事をしに行く所なんですよ。

**悪魔グレイルメイル嬢**
あなた達の言う仕事なんてものは、
有史以前から、
いかに効率よく消費させるかと言う者と、
いかに懐から多くの物を
盗んでやろうかと言う者同士の貶し合いで、
結局の所、生み出すという事を知らないじゃない。
美徳が無い下賤共が、殺し合いの荒野に、
事が済んだ後で美徳を付け足して、
そこで行われた秘儀は永遠に密葬する。
そして、その密葬した
哀れな骨の事をやがて誰も知らなくなっても、
美徳に関してだけは日々語り継ぎ、
それを栄光だと宣う。
それが男共の仕事というものでしょう?

人生とは、そんな事をする位なら、
斜に構えた物乞い(キュニコス)達と
お茶会でも開いていた方が、
全くマシな時間が流れるというものではなくて?

そもそも、あなた。
私の孤独を和らげる頼み事よりも
大切な用事なんて、
この国で誰が依頼できるというのかしら?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いえ、お嬢様。確かにそうなんですが。
でも、やっかいな連中に捕まってましてね。

かの男が十字架にかけられた時に、
その場にいた連中だとかですね。

**悪魔グレイルメイル嬢**
ふん。
どうせ、お上連中のご都合とやらで、
こき使われているだけでしょう?
どこぞのお偉方を招いて、
やれ遊戯だとか、ダンスだとか、
そんな事が辺獄(リンボ)の大将軍のお仕事かしら?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
近ごろじゃ、お仕事なんですよ。
最近は子守りってのも
加わりましたけどね。

昔のように、戦の旗をあげて、
雄叫びと憎悪で
神に挑戦する時代は終わったのです。
気長にやっていかないと、
長続きしないって事に気がついたんですな。
そうしないと、社会主義の学生共のように
途中でへばってしまう事になる。

**悪魔グレイルメイル嬢**
じゃあ、その気長にやった野犬達が、
どんな理想の世界を結局、作ったというのかしら?
彼らは、自分たちの遠吠えが聖霊の世界にすら
届いていると思っているのかもしれないけれど、
本当は、自分の庭で積んだ積み木を
ひっくり返しているだけなのよ。
滑稽な事だわ。

そんな事より、今日は私の相手をして下さいな。
私、あなたの話してくれる昔話を
聞いている時だけは
敗戦の傷の痛みを忘れられるのかもしれない。
ええ。悪霊に、決してそんな良質な
遷移は訪れないのだけど、
それでも悪霊だからこそ、
それを追い求めて止まないのよ。
悪徳ってそういうものよね?
神が一方方向に進める時計のネジの中で、
私達は狂った思考を止める事なんて
出来ないのだとしてもね。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
そうしたい所なんですがね。
全く、あの連中ときたら、
人をこき使う事しか知らない。
大戦の英雄だか知らんが、
もう大昔の話だってのにさ。

それでも、行かなくてはならないのです。
なんというか・・、
力というのは、
往々にして人生を無意味な方向に消費させるのです。
そして、弱者はそれに逆らえない。

**悪魔グレイルメイル嬢**
あら、ニシンの漁に
出かけていただとか言えば、問題ないでしょう?
実際、しばらく小骨の多いあの魚を巡って、
お上連中は大忙しなのだから。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
へぇ。
確かに四旬節のあの魚は
食べても罪業にならないとかで、
色々と小賢しい策略に使われるんですな。
時代が変われば、
祈りの仕方も変えなくちゃあいけねぇみたいで。
何とも業の深い話でございますよ。

**悪魔グレイルメイル嬢**
それとも狂っているとはいえ、
知己溢れる若人との会話よりも、
老人の介護の方がお好きなのかしら?
いかれているわ。
そこにおかけなさいな。
突然、降ってわいた休暇は大切にするべきよ。
あなたは大将軍というより、
芸術家先生と呼ばれるべきだと思うの。
蛆を吐き出す巨大な黒犬(コルプシオン)の口を
引き裂いたからといって、
それがなんだと言うの?
誰でも出来る事を
男であるという理由であなたがした。
老人共が望んだようにね。
そうでしょう?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
(待てよ。これはこれで利用できる状況かもしれんな。
あの連中から解放される口実ができるし、
第一、あのじじいと、この女。どちらも恐いが、
おっしゃる通り、仕事よりも、
迂遠(あくま)との語らいの方が粋というものではないか?
こんなうるさい女でも、
じじいのチェスの相手や、
天使共の子守よりは、まだマシというもんだ)

いえ、敵いませんな。
では、今日一日は仕事から
解放させていただきますか。
お嬢様の権力に乾杯しまして。

<将軍、悪魔グレイルメイル嬢の向かいのイスに腰掛ける>

**悪魔グレイルメイル嬢**
ああ、将軍。
また、あなたの昔話を聞かせてちょうだいな。
あなたのこの間の
「スペインの愚かな豚」のお話は、
なかなか良かったわ。
イベリコ豚がラタトゥユに入りたがるなんて、
愚かな話よね。
ああ、でも、
「黄金と大便の真実」の話は
いまいちだったけれど。

全く、毎日毎日が退屈だわ。
やる事と言ったら、
こうしてイスに座って、
時たま天上の聖霊共と
つまらない哲学について
語り合ったりする事くらい。
あいつらも時間だけは持て余してるからね。
でもあいつらはラテン語しか話せないから。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いえ。
あいつらはラテン語しか話せないんじゃなくて、
ラテン語しか話さないんですよ。
この世界の調和の為にキリエを歌うには、
ラテン語だけで十分と思っているわけですな。
傲慢な連中です。
ドイツ語で答えてやるといい。

しかし、退屈ですか。
確かに。、
かといって、塩を喰らう勇気を
持ち合わせているわけでもないでしょう?
我々は実に臆病だ!!

さて、迂遠殿。
しかし今度は一体
どんなお話をお聞かせすればいいやら。
それというのも、
お嬢様の老獪な魂を満足させる話というのも
そろそろネタ切れでしてね。
何たって女性ってのは、人も悪霊も同じ。
やれ神学だの哲学だのの
三流のまやかしが通用しないのです。
中でも血を見たがるのが
あなたの性分ですからね。

**悪魔グレイルメイル嬢**
あら、御謙遜ね。
天界から地の底までの、
ありとあらゆる芸術を愛し、
私の主(あるじ)や、地獄の百人隊長さえも酔わせた
アナタのその騙るという才覚で、
私を陶酔させてちょうだい。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いやまぁ、そういう肩書きだけは立派ですがね、
じじい共の方が、お嬢様より、
よっぽど御しやすいというものなのですよ。
ダウランドには適当に対位法を聞かせておけばいいが、
相手がスクリアビーネとなると
そうもいかないのです。
今度は情熱というやつが必要になるのでね。

**悪魔グレイルメイル嬢**
私は、あなたが昔語ってくれた
「ガリシアに行く豪族」の話が好きよ。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
ああ、「ガリシアに行く豪族」ですか。
なる程。
まぁ、そう急かさないで下さい。
この道化に早急さなどは逆効果なのです。
最も小粋で繊細なものは、
自然な状態の時にだけ現れる。
すなわち最も怠惰で無駄な瞬間にですな。

<悪魔アムドゥスキアス、
しばらく考え込んで、思いつく>

そうだ!!
実はあの話には続きがありましてね。
あのじいさんより3代後の子孫が、
神の従僕になったわけです。
いや、2代後だったか?
まぁ、ともかく、
今夜は、その男の身に起こった
サルスエラでもお聞かせしましょうか。

**悪魔グレイルメイル嬢**
まぁ、サルスエラですって!!
私、劇場と、処刑場は大好きよ。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
どちらも、切なさと虚しさの残る
神聖な場所ですからね。

とはいえ、サルスエラといっても、
そこまで煮込んだものでもない。
まぁ、たわいもない話なんですよ。
左手こそ出てきますかね。
退屈でなければいいのですが

**悪魔グレイルメイル嬢**
いいのよ、聞かなくたって退屈なんだから。
そういう流儀を
私達は神から教わったのじゃなくて?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いいでしょう。 いいでしょう。
それでは、
ある一人の男のお話しをいたしましょう。
そいつはジャーマンです。

<悪魔アムドゥスキアスが指を鳴らすと、
教会が現れる。過去の世界の幻影が映る>

<誰もいない教会の礼拝堂
グローデンフェルト神父がグラスに水をそそいでいる>

<神父、グラスをかかげながら>

**グローデンフェルト**
ああ、ティオフィリス!!
お前の事を考えると、胸が痛む。
これは、恋なのか?
かつてパリサイ派の人々や、
邪悪なマルシ族を悩ませた病と同じものなのか?

いいや!! これは、そんな稚拙な恋などでは
言いあらわせぬ高尚な愛だ!!
主が我らを愛するように、
聖霊達がアンブロジウス聖歌に込めた
密かな祈りのように、
私は、この心でお前を愛しているに過ぎんのだ。

ああ!!
世の罪を取り除いて下さる神の小羊よ!!
天上の霊達よ!!
あなた達がもし、
この世の全ての美しいものに
最高の栄誉を与えて下さるというのなら、
彼、ティオフィリスにこそ、
その魂の輝きに
最も相応しい賞賛をお与え下さい!!

だが、おお、全能なる主よ!!
許したまえ。
これが、もし、
もしもだ。
許されぬ愛だというのなら。
なんという事だろう!!
これは、私を楽園から追放する主のご意志なのか!!


<2人の悪魔が暗闇の中からその様子を見ている>

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
全く愛だのなんだのと、
若さというのは愚かなもので。

**悪魔グレイルメイル嬢**
あら、その愚かさが良き善人というものじゃない。
真の傲慢さや、老獪さは、
左手にこそ宿るものよ。
どうも昨今では、
それらが忘れ去られていて、
鳥の調教師が流行りなんだというじゃない。
信じられる?
鳥の調教師よ!?
何でもあいつらが朝一から教会に並んで、
神に懺悔をするのだけど、
実際に祈るのは奴らじゃないのよ。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
へぇ。
誰なんですか?

**悪魔グレイルメイル嬢**
鳥なのよ!!
調教師どもの肩に乗っている鳥が
ミサでサンクトゥスを歌う様を想像できて?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
それ、魂の徳は
鳥に行くんですかね?
それとも調教師に?

**悪魔グレイルメイル嬢**
そんなの知らないわ。
教会の中の事だもの。
それこそ約束の日まで
わからないって事でしょう。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
確かに、そのとおりですが。
教会の中で知恵のない鳥が
あの黒い目で善を語ってるってのも
気味が悪いや。

**悪魔グレイルメイル嬢**
それで?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
へぇ。
それでとは?

**悪魔グレイルメイル嬢**
話の続きよ!!

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
ああ、それでしたね。
あの男の話。
あの男の恋の話。

とはいえ、
ただの恋物語じゃあ、
昨今の客は満足しないというものです。
劇中の恋だの愛だのなんてのは、
愚かで、しかも堕落してなきゃあね。
そもそも、神の均衡の世界じゃ
衆道はなぜだか
地獄に落ちるご所行でしてね。
我々の間ではこれ以上ない位、
粋な趣味なんですがね。
かの皇帝ネロだって
我々に指南を受けて立派に育った。

まぁ、とにかく、
これからが面白くなってくるわけです。
なんたって、
登場する役者が面白いんですよ。


<再び教会の礼拝堂。
グローデンフェルト神父が神に祈っている>


**グローデンフェルト**
おお 主よ お救い下さい
ああ どうか我々に美しい恵みを下さい
おお 主よ お救い下さい
その為に我々はただ願うのです
悲しみから 悲劇から 孤独な我々をお救い下さい
そして願わくば永久の王国に
アーメン

<司教が礼拝堂に入ってきて、
グローデンフェルト神父に話し掛ける>


**司教**
グローデンフェルト神父。
知らせだ。

**グローデンフェルト**
これは司教!
なんという事だ。
いらっしゃるとわかっていれば。

**司教**
いや。
そんな事は気にしなくていい。
君に知らせがあって、
こちらも突然訪れる事にしたんだ。

**グローデンフェルト**
知らせですか?
それが良い知らせである事を
願わずにはいられません。
ああ、何といっても
最近、よく眠れていないのです。
よって、悪い知らせだったら、
知らせる前に、一回、足を鳴らしていただけませんか?
ああ!!
それで少しは心の準備ができるというものです。
・・・
だけど少しですよ。

**司教**
ふーむ。なかなか面倒だな。
君という男は。
では良い知らせだったら?
手を鳴らすか?

**グローデンフェルト**
いえ。
いいえ!!
良い知らせでしたら!!
何も鳴らす必要がありますか?
突然でいいのです!!
私の心臓をどうぞ驚かして下さいませ!!

**司教**
実は両方あるとも言える。

**グローデンフェルト**
おお!!
何て事だ!!!

<グローデンフェルト、崩れ落ち、膝をつく>

その場合はやはり・・・

**司教**
君はトレブスの好事会に参加していたろう?
そして自分の詩を朗読した。
あの変人共の前でな。
まぁ、そうさせたきっかけを作った
大罪人は、他ならぬ私だが・・・

**グローデンフェルト**
ええ。
しました。
しましたとも!!
ちなみにそれは・・・
お話の途中で、とても言いにくいのですが・・

**司教**
良い方か、悪い方か?
という事かね?

**グローデンフェルト**
それです。

**司教**
まぁ、つまりね。
彼が君の詩を選んだんだ。
あの奇人の大将がね。
ぜひ、多くの者が集まる彼の自宅での会で
また君自身に朗読してほしいとね。
とても高く評価していた。
ああ、おめでとう!!神父!!
確かにあの詩は素晴らしいものだった。
言われてみれば、そう思うね。

**グローデンフェルト**
なんと!! それは本当でしょうか?
ああ!! これがどれだけの栄光でしょう?
どれだけの栄誉でしょう?

<グローデンフェルト、
天に向かって歌う>

主よ!! あなたの作った偉大な作品は
鳥のさえずりであり、川のせせらぎでありましょう!!
また、11月の朽ちた森での枯れ葉の舞う音であり、
時には怒れる嵐の中の恐ろしい雷鳴でもあるのでしょう!!
教会のパイプオルガンの音色そのものでもあり、
人の喜び、苦悩そのものですらあるのです!!
ああ!主よ!! そんなあなたの耽美なる旋律に比べ、
私の作った小さな歌のなんと惨めな事か!!
しかし、なんという慈悲なのでしょう!!
あなたの調和の片隅に私の歌は加われるのですか?
ああ、そんな事は決してないのは知っています。
それでも、私にとって、こんな幸運はないのです!!
そんな事に一喜一憂するのが私という人間なのです。


ああ!!?
しかし、しかし!!
それでは、それが良い知らせではないですか!!
まさか!!
まさか、良い知らせを先に
言ってしまわれたのですか!!?

**司教**
そうだね。

**グローデンフェルト**
それでは!!
それでは残っている知らせは、
悪い知らせではないですか!!
なんという事でしょう!!
最後に悪い知らせを聞くというのは、
最初に悪い知らせを聞くよりも
何倍も恐ろしい事ではないでしょうか?

(ああ!!
この様な素晴らしい気持ちから
私は地獄に叩き落されなくてはならないのか!?
しかし、一体、私は今まで何度、
この様な目にあったのだろう?
目の前に素晴らしい黄金を発見した探検隊は、
その喜びの余り、
とても巨大で醜悪な事実を忘れるのだ。
それはつまり、
これからも我々は
生きていかなければいけないという事。
その残りの道に一体、
どんな淡い色の蟹が這っているか
考えた事はあるのか?
その蟹は、少しでも心許せば、
たちまちこちらの血肉を貪りつくす。
黄金を発見し、その輝きを生涯、
己の中に留めておけた者が一体何人いるのだろう?
宝を発見したその洞窟から一歩出た所で
彼らはサソリに刺され、命を落とすのだ!!)

ああ、司教!!
私が堕とされるべき場所。
それは辺獄(リンボ)なのでしょうか?
それとも地獄なのでしょうか?

どうか、それを私は知りたいのです!!

**司教**
ああ、まぁ、待ちなさい。

言いにくいのだがね。
言いにくいから、
遠回しに言わせてもらおうか。
調和というのは、美しいもの、主の許したもの、
気高きもの、清きもの、
讃えるべきもの、栄光を見せるもの、
そういったものが上も下もなく、
中央も隅もなく、光も影もなく、
一つの美しい神の球体を
作り上げる事ではなかろうか?
それは自然の美しさでもあり、
我々の別れや、
出会いの美しさであるかもしれない。
あるいは死の悲しみすらも、
そういった観点では美しいのものだ。
それが主の望む世界であり、この世界なのだ!!
そうだね?

**グローデンフェルト**
はぁ・・・
その通りで。

**司教**
だが、当然、調和を保つ為にこそ
排除しなくてはならないものもあるのでは?
そういったものを排除していく、
その過程こそが魂の修行であり、
主の園への道なのではないか?

確かに悪い知らせもある。
グローデンフェルト神父。
私は君に忠告しなければならん。
運命が良好な時こそ、
人は慎重を期さなければならないからね。

沼亀の背中を島だと思い、
溺れ死ぬ草鼠のようになりたくなければ。

**グローデンフェルト**
よくわかるお話です。
つまり?

**司教**
君が教会で養っている青年の事で、
よくない噂が流れているのだ。
ティオと言ったか?

君とその青年の関係を
悪くいう連中が増えているのだ。
神父。

**グローデンフェルト**
おお、司教様!!
まさか!?
そのような噂を信じるのですか?

ああ、そのような事が真実ならば恐ろしいことです!!
ですが、真実のない噂を流した鼠ならば
溺れ死ぬでしょう。
主は全てを見ておられるのですから!!

**司教**
もちろん、わかっているとも。
だが、気をつけたまえ。
君は優秀な者だ。
足を引っ張る連中を喜ばせてはならぬ。
自分の信仰を疎かにし、人を非難する事を
己を高める手段だと
誤解している連中を喜ばせてはならぬ。
うわさが立つような
如何わしい行動にも気をつけねばならぬのだ。
私に秘密を持たぬ事だ。わかるかね。

**グローデンフェルト**(独白)
(ああ、この想いは誰に語ることも許されぬ!!
罪深い私の秘密なのだから!!
おお、主よ!!お許し下さい!!)

<司教が退場する>

<ティオと子供達が、礼拝堂に入ってくる>

**子供達**
神父様!!

**グローデンフェルト**
おお!! おまえ達!!
どうした?
ここに用事かい?

**グンナー**
いいえ、
神父様を探していたのです。
ティオが夢を見たのです。
良い知らせがあるという夢を!!
だから私達はそれを知らせに会いに来たのです。
だって、ティオはこういう事に関して、
言いだしたら聞かないから・・

**グローデンフェルト**
私に良い知らせがあるという夢を?
おお!! それは正夢だ、ティオよ!
まさに主が啓示を下さったのだ!!
天使を使わして!!
なぜなら、おまえは純粋だからだ!!
世界が仮に黒く染まっていたとしても、
お前だけは輝いているからだ!!
魂の輝き。
古き時代に翼のはえた馬達が、
乙女の魂の中に見いだしたものと同じ魂の輝きだ。

おまえには未来を見通す不思議な力がある。
それは主の力だが、
おまえは主の目を通して、口を通して、
何かを伝えられているのだろう。

**グローデンフェルト**(独白)
(だが、おお!! おまえは時々、私よりもずっと賢く、
大人達よりもいろいろな事が
わかっているようにも思う。
それはまるで婦人の叡智にも似た底知れぬものだ!!
私はそのおまえの
底知れぬ心の深さに嫉妬すら覚えるのだ。)

**グローデンフェルト**
ティオ、その夢はまさに正夢なのだ。
たった今、私の詩がトレブス師に選ばれた
という知らせが入ったのだから !!

<子供達、それぞれに喜ぶ>

**ティオフィリス**
ああ!! 神父様!!
それは、なんて、なんて素敵な事かしら!!
お祈りしなくてはいけない事はたくさんあるけれど、
少なくともこれで一つ、
私の神様へのお願いが叶ったね。
夢で教えて下さったマリア様にも感謝の祈りを。

**グローデンフェルト**
ティオ。
ならば私もお前の為に、
祈らなくてはいけないね。
おまえが幸せになれるようにと。

<グローデンフェルト神父、
ティオフィリスに触れようとするが、止める。>

**グローデンフェルト**
さぁ、そろそろ、
ラドラムさんの夕食の支度の時間だ。
お行きなさい。
私も後から行くから。
共に祝ってくれ。

**子供達**
はい、神父様。

<ティオフィリス、神父と子供達と別れた後、
礼拝堂の扉の外で立ち止まる>


**ティオフィリス**
神父様は私が何も知らないと思ってるのだなぁ。
ああ、だけれどその方がいいのかもしれない。
そう、私も・・・。
なぜなら、こういう事は少なくとも
私達の世界では良い事とされないから。
死んだ土と、
墓場のにおいのする冥界の世界の話だから。

神父様の足を引っ張りたい人達に、
ああ、そういった墓場の犬達、屍みたいな連中を
喜ばせてしまう事は避けた方がいいのね。

だけれど、
それがあなたを悩ませているわけではない。
可哀そうな神父様。
あなたは自分が私を愛する事が、
神様に背く事だといつも思ってる。

そうかもしれない。
ああ、そうかもしれない。
その手の事は悪魔でもない限りわからない。
いっそ悪魔に生まれれば良かったんだ。

そうしたら、もっと世の中の事がわかって、
その仕組みの中で
上手く立ち回れたかもしれない。

ああ、神様!!
あなたは私の事を知らないでしょう?
本当にご存じですか?
こんなに醜い浅ましい私を。
それとも知った上で、
私を貴方様の祝宴に招いて下さるのですか?

では神父様は?
神父様は神様の事をご存知ないのです。
私の事を本当にはわかっていないのと同じ様に、
誰もこの世の・・・
神様の事なんてわかっていない。

大好きな神父様。
あなたが私の願いを聞いて下されば。
私の忠告を聞いて下されば。
私はアナタを、
迷いの中から救ってさしあげたいのです!!
むしろ、行けるべき場所に、
連れて行ってあげたいのです。
まぁ、
私も冥界の土を踏んだのですから。
墓場のムカデや、ウジムシの這い回る地獄に
落ちるのでしょう。

ああ、でも、きっと、あなたは
私の言う事などに
耳を傾けてはくれないのでしょうね。
なぜなら、それが世の中だから。
それが男の人というものなのでしょうよ。

教会の人達も誰もわかっていない。
神様の事など。

ああ、愛おしい神父様!!
でも、私にできる事がまだあるのです!!
私がアナタにできる事が!!
それは神の思慮は、私達などが・・
浅ましい犬達などが
及びもつかない高い所にあるのだという事。
そう、それを私達は知る事も見る事もできない。
神学だの哲学だのを何百万人の人間が考えた所で、
神の真意を知る事なんてできないんだよ。
そりゃ、アルビ派の人達や、グリモアの人達は、
浅ましい恥にまみれた
うぬぼれた心で神の箱庭に足を踏み入れて、
ここが神の御殿だ、
と勘違いする愚か者だったかもしれないけれど、
神学会の人達だって、
神の箱庭を、宇宙の本当の姿だと思っている所は
滑稽で変わらない。
私にだって、本当の所はわからない。
頭でっかちの学者や、高慢ちきな女達、
浅ましい犬達よりは、
色んな事を知ってるけれど。

そう、きっと、きっと、
答えはとても簡単なものに違いない。

<ティオフィリス、ふと想い出す・・・>

何だろう?
憶えていないけれど、何処かで聞いた歌。

長い悪夢の後には、ゆるやかで、
優しい午後の時間が流れるのですから・・・

<礼拝堂の中でグローデンフェルト神父、再び神に祈る>

**グローデンフェルト**
ああ、祝福され生きる者
追放され、生きる者
ああ、初めからいつだって道は決まっているのだ!!

ああ、輝く道を行く者達よ
正しき行いをし
毎日の祈りを欠かさず
それでも楽園に入れない者の声を聞いてくれ

罪深い私が、楽園に行こうというのか?
なんと、浅ましい!!

ああ、主よ!!
なぜ、私をお造りになったのでしょうか!?

ティオ、おまえは誰からも愛され
祝福され、闇の汚れなど知らずに生きていく運命の者

私は、闇の中を地獄に向かって進む!!
虫けらのように!!

ああ、祝福され生きる者
追放され、生きる者
ああ、初めからいつだって道は決まっているのだ!!

ああ、初めからいつだって道は決まっているのだ!!


<闇の中で、悪魔達が語る>

**悪魔グレイルメイル嬢**
ああ、素敵だわ。
他人の苦しみほど、ほっとするものはないわよね。
他人が世界で一番苦しんでいる時は、
少なくとも自分が世界で一番苦しんではいないもの。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いや、全くその通りで。
しかし、他人が世界で一番苦しんでいる時に、
地獄で一番苦しんでいるのが
悪霊なのではないでしょうか?
残念な事にね。

しかし、人間は全く律儀なものですな。
こういう秘密ごとは
自分に都合よく解釈してしまうのが、
長生きの秘けつだと個人的には思うのですが。

例えば、聖人の墓を倒してしまった男がいるとして、
その男は罪の意識にさい悩む必要はないのです。
聖人が、試練に耐える事が
神の国への修行の道だというのなら、
試練を与える側も神の僕に違いなく、
むしろキリストに石を投げた者にこそ
報酬をいただきたいものです。

**悪魔グレイルメイル嬢**
それでは、ご老人の喜ぶ
勧善懲悪の劇は成り立たないじゃない。
成り立っているのなら、
満足する者も、金を返せという者も
無視していい仕組みなのよ。
劇は成り立ってこそ、
役者もプライドが満たされるのだから。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いや、確かにその通りでございますな。
ただね、劇が成り立っただけで満足する連中なんて、
脚本家と演出家くらいなものですよ。
役者のプライドとは、
いつだって観客からの歓声にあるのです。

さてさて、話を続けましょうか。
ともあれ、いつの日にか、
彼の耳にたくさんの風の悲鳴が
聞こえるようになるのです。
そして、やがてそれが
悪霊達の囁きに聞こえるようになる

**悪魔グレイルメイル嬢**
あら?
もしかしてあなたの仕業なのかしら?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いやいや、とんでもない。
でもまぁ、こういう事に関して、
大得意な奴らもいるもんです。
そういう連中は大抵、
やれ、どこぞの大先生の肩書きを引っ張り出してきて、
やれ自分達はエリートだ。みたいな顔をしているが、
実際は、ハイエナみたいな臆病で姑息な連中ですよ。
信用しちゃいけませんな。


【次回の記事に続く】↓↓





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