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自分以外全員他人【読書感想文】

最近読んで面白かった本を紹介する。
今回は西村亨『自分以外全員他人』

(ネタバレはない…はず)


きっかけ

日経新聞の書評で知った。強烈なタイトルに惹かれた。

どんな本?

「生きづらさ」がキーワードの小説。終始、陰鬱な雰囲気だが、なぜか読みやすい。コロナ禍の日本社会を舞台にした物語で、実在する公園やスーパーが出てくるのでリアリティがある。第39回太宰治賞受賞作。

あらすじはこんな感じ。マッサージ店に勤務するHSPな主人公が客や同僚、母親との人間関係を通じて鬱憤を溜めていく。その鬱憤が爆発して取り返しがつかなくなる前に、どうにか「生きるのをやめたい」と考える主人公の物語。ラストは戒めとも解釈できる。

感想

劇薬注意?

心が元気じゃない人や、主人公と似た境遇の人は精神的にダメージを喰らうかもしれない。幸いにも、私は健康な状態で読んだので純粋に楽しめた。

私の妻にネタバレしてみると、妻は「面白そうだけど読むのはやめておく」と言っていた。物語中では母親との関係性がキーとなっている。親子関係にモヤモヤを抱える人は、良くも悪くも引き込まれるかもしれない。

ルール違反者がルール遵守者を非難する

主人公はルールを守る意識が人一倍強い。ルールを守っている自分が、ルール違反者のために我慢しなければならない理不尽に強烈な怒りを抱く。そうした怒りが爆発して、主人公自身が暴力事件などのルール違反を犯してしまうのではないかと危惧している。

私も主人公に共感した。さすがに暴力事件を危惧してはいないが、ルール違反者がルール遵守者を非難する謎の構図には嫌気がさしている。世の中には「ルールを守っているのに非難される瞬間」があるのだ

たとえば、エスカレーターの右側(地域によっては左側)に立ち止まっていると舌打ちをされることがある。「歩く人のために片側を空けるのがマナー」との主張もあるが、それはルール違反を促すようなもの。ルール違反のマナーなんて笑止千万だ。

他者に期待しない方が生きやすい

主人公は他者に期待しすぎたがゆえに、生きづらさを抱えていたのではないだろうか。すなわち、人間はすべからく品行方正であると信じたのが仇となった可能性がある。

「片側を空けるのがマナー」と主張する愚か者もいる、と諦めた方が生きやすい。なんなら、愚か者の誤謬が同調圧力という妖術によって正当化されることすらある

私は遊び感覚で同調圧力に逆らうこと(エレベーターで立ち止まるなど)がある。しかし、当書を読んで、話の通じない愚か者に突然ブン殴られる危険性を再認識した。

まとめ

暗い本なので暗い話が多くなってしまった。ただ、数は少ないが明るい描写もあった。たとえば、サイクリング後に公園で弁当を食べて幸福感に浸る場面。私からすると、そのような幸福感を抱えてなんとか生きていけないものかと不思議に思った。私のようなお気楽人間には理解できないナニカがあるのだろうか。

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