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有給休暇の過ごし方 vol.3


 朝4:00頃。
 硬いカーペットの上で一晩過ごしたせいか目覚めの良い起床。軽く携帯を触ろうかと思うも、今は海の上。電波が入る訳もなかった。船内にはWi-Fiもあったが、この日は調子が悪かったのか全くもってつながらなかった(結局、行きも帰りもWi-Fiは繋がらず)。
 そのため、自然とサブテーマとして考えていたデジタルデトックスが予期せず始まっていたのである。

 他の方に迷惑にならぬよう、船内では軽いストレッチと食事を手短に済ませた。閉鎖的な空間にいるのも息が詰まるので、到着後すぐに下船できるよう身支度を済ませ、タバコを持ってデッキへと向かった。ただ、船内は禁煙の為、喫煙ルームを使うためでもあった。

5:20
岡田港到着30分前。


 6Fのデッキ出入り口から外に出ると、私と同じく朝日を見ようした人が何人かいた。
 進んできた航路に目をやると、コンテナ船が何隻も見える。西側を向くと伊豆半島(多分)、そして富士山を望む。そして東側は水平線に沿って朝焼けの綺麗なオレンジ色が広がっている。まだ太陽は完全に登り切っていないのに、橙色が力強く空に伸びていた。
 夜明け前の空とのグラデーションってやつだと思うが、こんな空を見たのは久々かもしれない。都会で忙しなく働く人たちにとって、この空の色は到底知りうることは出来ないのかもしれない。「こんなにきれいな空を最後に見たのはいつだったのか」なんて考えてしまうほどに空の美しさに見とれていた。雲一つない空を見上げ、眠いなと目をこすりながらも私は煙草を持って喫煙ルームに向かう。幸い窓辺は空いていたのでそこに腰掛け、煙をくゆらす。正直何をしようか、どのような順番で巡ろうかと考えていなかったためYouTubeを参考に、場所にピンを据える。

 5:50。いよいよ岡田港に入港しようというところで、私も客室に戻り荷物諸々持って下船の準備を始める。降りる方々はやはり、ジオパーク巡りの団体客が多く、地元の方がちらほら。私のようにリュック一つで島旅を楽しもうという人は見受けられなかった。世間でいえば平日であり、私の場合も普段なら電車を乗り継いで通勤している最中である。しかし、今はストレスのたまる満員電車に埋もれることなく、一人で島を旅しようとしている。QOLは爆上がりしていた。

 5:55。岡田港に着岸。
タラップを降りて大島の地を踏む。んー、少なくとも都心より空気は澄んでいておいしい。港からは富士山も見える。特に霞んでいるわけでもなく、くっきりと見えた。


入港直後の岡田港。焼けた富士山は雪化粧。

 入港する際に船内アナウンスとして、東海汽船の船舶が出入りする大島もう一つの港、元町港へ向かう臨時バスが出るとのこと。しかし、事前に調べていた時刻表には記載がなかったため、知らなかったとは言わんばかりのまさに渡りに船。降りてから1分ほど歩き、バス停に停まっていた元町港行きのバスに乗る。ここでも乗客を見てみたが、一人で来たという人は見受けられなかった。

 とりあえず終点まで乗れば、私の旅の拠点となる元町港に着くということで乗車して島の道路を進む。
 所々で乗客の乗り降りがありつつ、30分程で元町港に到着。
 目的の一つとして、『温泉に浸かる』を果たすべく徒歩4,5分の所にある温浴施設に向かった。

7:10。元町港横の展望台にて。
右手には富士山を望めるロケーション。空は快晴の秋晴れ。

 船の就航スケジュールによって開館時間も変わるということで、私が訪れた日は朝7:00から開いていた。大人700円の入浴料を払い、前日シャワーのみで済ませてしまった身体を清潔に保つべく洗い上げ、湯に浸かる。効能も書いてあったと思うのだが、正直それを気にするほど脳は働いておらず、無心で湯に浸かりただぼーっとしていた。

 朝も早すぎたためか館内のレストランもやっている気配もなく、温泉に浸かった後のお楽しみの牛乳自販機も見当たらなかったので、渋々後にする。
 とりあえず、ぼーっとしてデジタルデトックスすることにしていたので、上の写真を撮った展望台のベンチに腰掛け、港でもらったチラシや地図を頼りに朝ごはんが食べられる場所を探す。乗船前に竹芝のコンビニで買った菓子パンが少し残っていたため、口にほおりながら予定を立てる。
 事前に調べた情報によると、元町港近くには3件ほど朝食が食べられるお店があり、早いところだと朝7時には開いているらしい。しかし、そのお店にいくと営業中と書かれたのぼりの横に準備中ですと書かれた殴り書きの紙が貼られていた。

 「どっちやねん」

 これも田舎の良さかななんて思いつつも朝から地のものを食べられるお店はそこだけであったため、どうしようかと若干困った。店内にも人気がない感じだったので、とりあえず元町港周辺をぶらついて時間をつぶしながらどこに行こうか考えることにした。島ということもあり、海岸線沿いの道路は海風が気持ちよく吹き抜ける。空気も澄んでいて、かつ秋真っただ中というのに半袖で過ごしても申し分ないんじゃないかというほどに暖かかった。久しぶりに朝7時を気持ちよく過ごすことが出来たと思う。

閑散期だからか人気はほぼ無い。

 いったん島の南部、波浮港周辺に向かってみてそこから三原山登れたらなあなんて考えていたのもつかの間。実は当日に至るまで、三原山まで行けるバスが土日祝日・年末年始の身の運航ダイヤであることを知り、レンタカーやタクシー以外での三原山探訪が難しくなってしまった。レンタカーも安くて1日5000円、タクシーはもっとお金がかかってしまうということで、けちけち貧乏旅を進める私は、今回の旅で三原山を諦めることとなった。
 まあ、次回訪れた時の最重要目的にはなるし、とりあえず地の物といい名物グルメなど満喫しようと切り替え、9時近くの波浮港に向かうバスが来るのを待った。

 元町港のフェリーターミナルはこんな感じになっているんだー
 ここに郵便局があってー、みずほ銀行がー、ここに町役場があるのねー
 この通りは閉まっているお店が多いなー
 あっ、七島信用組合だ!(私が就活時、新卒で入った会社に内定をもらったために選考を辞退した企業)


 本当にノープランで来てしまったがために、朝早くからの時間を街ブラでつぶしてしまった。
 元町港を軸とした路線バスは、平日は岡田港や大島公園に向かう路線と波浮港や町営の陸上競技場までを結ぶ路線の2つしかなく、基本的に1時間に1本の間隔で運行されている。もう少しバスの本数なども多いとイメージしていたが、田舎の運航スケジュールとさほど変わらないんだと感じた。それも単に、秋の閑散期に訪れた私も悪かったのかもしれない。 

 ひとまず、波浮港に行って周辺地区の探索をしようと考え、9時過ぎの路線バスに乗車。都心でよく見かけるようなバリアフリータイプのバスは少なく、私が乗ったバスも高速バスでよく使われるようなサイズの大きめのバスだった。乗降口は一つで、後払い制。バスの運賃も安くはなかったため一日乗車券を買う。小回りの利くようなバスではないと思ったのだが、思いのほか細い路地や曲がりくねった坂道をがんがんと進んでゆく。免許を取ってからはろくに運転していないペーパードライバーの私にとって、レンタカーで移動とかやらなくてよかったーと思わせるほど。

 4,50分ほどで目的の波浮港に到着。同じバスに乗っていた女子旅の二人組や地元の人と思わしき高齢女性もここで下車していた。あらかじめバスの車内で購入していた一日乗車券を提示して港周辺を探索する。

波浮港の階段を登ると景色を一望できる


 この波浮港のある波浮地区は、小説『伊豆の踊子』の舞台とされ、明治から昭和にかけて歴史的にも名の知れた文豪が多く訪れた地。至る所に文豪の詩を綴った碑が置かれ、急な崖を上る階段で成る踊り子坂にも情緒あふれる歴史を感じさせる。踊り子坂を上った先には、先述の伊豆の踊子の舞台にもなった建物の一つ「旧甚の丸邸」、少し歩いた先には大東亜戦争時代の防空壕跡がある竜王埼灯台がある。

竜王崎灯台。
下の地面がえぐれている所は防空壕跡らしい。

 現地を訪れて分かった情報として、比較的出来て新しい旅館やホテルがこの波浮地区周辺には多く存在しているということ。軽く回っただけでも6軒ほど点在し、女子旅や家族旅行で利用されるような部屋の様式であった。次来た時はお金もしっかり貯めて、こういうしっかりとしたホテルを取って3泊くらいしたいなぁと羨む。

 時間配分を間違えてバスの時間まで時間が余った、そして小腹も空いた私は近くの商店でコロッケとメンチカツを注文し、すぐそばの波止場に腰掛けて美味しい空気を吸い込みながら食す。何故町のコロッケはこんなにも美味しいのだろう。そんなこと考えながら、噛み締めるように頬張るのであった。

港近くの商店のコロッケ。

 小腹を満たしたとしても、バスはあと50分待たないと来ないらしい。痺れを切らし、私はバスの始発の停留所まで山あり谷あり荒れた道もありながら進むことにした。





 書きたいこと多すぎるので、続きはまた次回。
 完結編です。


 続く

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