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あいだ
2023年6月23日 22:56
狐狼よ今宵はどうしたい探しているのは幸せかいそれともほかの何かかい月はおまえを照らさない土砂降りだけがせめてもの心情狐狼よ最期はどうしたいこの夜とさして違わない丘から見下ろす街あかりおまえの棲家は何処かね土砂降りだけがせめてもの抱擁
2023年3月24日 21:48
暗くて大きな天球の下に、白い砂丘がありました。広く地平の先まで続き、しんと静まっています。砂粒はさらさらとして細かく、ときおり吹く風に、小さな波紋をつくっておりました。まれに、天球からこぼれ落ちる星に応じるようにして、砂粒はそこ此処できらきらと光るのでした。あるとき、砂丘の中からいくつかの形が現れました。黄色、緑、橙とさまざまな色をした大きな鉱石のようなそれらは、砂から湧き出るようにし
2023年4月24日 22:42
腹をすかせた風船が虚しさをいっぱいに詰めて浮く色とりどりをまといながら頼りなげにふわりふわりと空っぽのかなしみをはち切れそうなほど裏返しにしてにこやかにぷかぷかと首を垂れてどうかわたしの中身になってくださいと抱え込めないものを乞うている
2023年4月17日 23:35
春がゆくあの山間の線路の上を花びらが埋めた石段の下を芽生えたばかりの青葉の川辺をいつかの思い出が弾ける胸中をあなたとわたしのあいだを春がゆく荷を抱え小走りの青年の横を煙管を咥え腰掛ける老人の背を風にめくられたカレンダーの前を光の差し込むカーテンの向こうを人と街のあいだを春がゆくいま、ゆく目を腫らしてゆく忘れたようにゆくふざけながらゆく
2023年3月30日 21:41
ぽたり、ぽたり、と、つららから水がしたたり落ちている。水はつららの表面を拭い取るように伝って落ちてゆく。ぽたり、ぽたり、と、一定の間を置いて、水は滑らかにしたたり落ちる。やがてつららはその身をよじり、姿形を歪にしてゆく。その形の不規則に応じるように、水は不安定なリズムでつららの表面をゆっくりと時をかけて削り取ってゆく。ぽたり、ぽたり、と、ひときわ細くなった部分を水は
2023年4月17日 22:18
貝を拾いにゆきました。それは、しずかなしずかな浜辺のできごとでした。きらきらと波紋を揺らす、透けた水の下を砂が流れては積もり、嵩を増し、また流れていきます。その砂、その堆積が描く波形は、生まれたての地層の赤子のようにあるいは、三つ子の頃に身にしみついた癖のように偶然を折り重ね、またとない形を築いています。潮が寄せては返すたびにそれらは洗われ、崩れ、また現れて、消えて
2023年3月25日 22:55
ゆるいカーブを曲がって、バスは山道を進んでゆきます。道路脇にはたくさんの木が生い茂り、何層にも重なりあう葉の隙間から、チラチラと陽射しがこぼれ落ちてきます。避暑地の夏は、こうして幕を開けました。有名とも無名とも言われる土地です。人が多い日もあれば、こうしてまばらな日もあります。トンネルの向こうに、まだもうひとつ町があって、そこがわたしのふるさとです。開け放たれた車窓から、そよそ
2023年4月21日 21:48
むかしむかし あるところ大地がふたつ 裂け目がひとつまっくら闇の大陸と のどかな花の浮き小島ひねもす小島に寝そべれば はるか大陸は蚊帳の外されど暗闇の霧深く 小島をとらえ渦を巻く繰り返す波のような日々 にじり寄る霧に果てはなく怯えた子らは裂け目に落ちて かなしみの歌がこだまするある朝見知らぬ来光だ 雲を背負った来光だ月かあるいは太陽か 大陸も島も飲み込んだ光は注
2023年4月9日 22:33
ゆらり、ゆらりと、眩しいほどの月が、水面に浮かんでは揺らいでおります。このあたりには、常夜、月の映る水辺がありました。しずかに凪ぐ日も、風雨のときも、月は燦爛と水面に光を垂れに来ました。その反射は夜の闇に浮き上がり、周りに棲まう者たちの眠りを遠ざけるのでした。月は水面に問いかけました。「わたしの光が見えているかい」水面は答えました。「なにも聞こえません」なおも月は輝
2023年3月24日 22:07
この山裾の緑は、どこまで続いているのでしょう。サーサーと鳴る風の音だけが過ぎてゆきます。まるで時が止まったかのようなこの場所です。今はもう殆ど訪れる人もない白い洋館があります。それはこの幾重にも連なった山あいの、森の木に覆われるようにして建っています。客室が多くあり、手すり付きの遊路が設けられ、歩くだけでもそれなりの時間を要する大きさです。屋上には見晴らしのよいベランダが突き出し