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野崎まど『タイタン』感想 業務内容はただ全人類を救うだけの簡単なお仕事です

 野崎まどの最新作『タイタン』を読みました。

《内容紹介》
今日も働く、人類へ

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。
人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。
しかし、心理学を趣味とする内匠成果【ないしょうせいか】のもとを訪れた、
世界でほんの一握りの≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。
「貴方に≪仕事≫を頼みたい」
彼女に託された≪仕事≫は、突如として機能不全に陥った
タイタンのカウンセリングだった――。

アニメ『バビロン』『HELLO WORLD』で日本を震撼させた
鬼才野﨑まどが令和に放つ、前代未聞の超巨大エンターテイメント。
                   (講談社BOOK倶楽部より引用)


 著者の『[映] アムリタ』でのデビュー当時からのファンですが、今作も相変わらず先が読めないストーリーテリングで大満足でした!!

誰もがドラえもんのポケットを持っている黄金時代!

 時は23世紀、人工知能タイタンに社会の管理を任せた人類は、《労働》から解放され、余暇時間を趣味や家庭に費やして人生を謳歌しています。
 タイタン制御下のドローンによる無償サービスの充実によって、企業はすべて解体され資本主義も廃れました。
 物流が完全制御された世界ゆえに『欲しい』とタイタンにねだれば、大抵のものは無償ですぐに届けられます。まさに黄金時代!

 主人公内匠成果も《趣味》の心理学研究をネット等で発表する日々を過ごす《労働》を知らない一般市民でした。
 そんな彼女に「仕事に就いて働け」と絶滅寸前の《就労者》ナレインがあらわれました。

人類を救うだけの簡単なお仕事とゆかいな仲間たち

 有無を言わさず連れて来られた先は、世界に12機しかないタイタンの2号機、通称『コイオス』の基幹施設。全世界125億人の人口のうち、約10億人の生活を管理しているこのAIが原因不明の機能不全に陥っている、という緊急自体。
 早急にこのAIにカウンセリングをして問題を解消しなければ10億人、あるいはタイタンのネットワークでつながった全世界125億人に未曾有の災厄が降りかかる!
 人類の明日のために、嫌が応にも働かなくては生きていけない!

 働いたことがない内匠はこの突然の「仕事」に戸惑うばかり。内匠の視点で進むこの物語は、現代の仕事環境の矛盾や悪習について、容赦なくグサリと刺してきます。
 それに対する仕事人間ナレインの大人な意見はいちいち聞いてて耳が痛い!(∩゚д゚)アーアーきこえなーい

 職場で一緒に現場で働く《同僚》も変人ばかり。
 マネージャーであるナレインは初日からいきなりパワハラしてくるし、エンジニアの初日からいきなりセクハラしてくるしと第一印象は最悪。
 AI担当でリーダーのベックマン博士が人格者のおじいちゃんで、内匠に気を配ってくれるところが唯一の癒し。

 しかし話が進むに連れてこの職場、内匠は割と平気で無茶をやるし、ナレインは筋金入りの《仕事人間》でどんな状況でもブレないし、ベックマン博士は意外な趣味で終盤大暴走だしと、実はカフェイン中毒の変人担当だった雷が一番まともな人間なのでは?と思えてきます。アットホームナアカルイ職場!

 人間たちが色々と残念な分、純粋なコイオスがひたすら健気で泣けてきます。秒でアナログハックされてしまいました。

野崎まど版『われはロボット』

 コイオスと内匠のAIカウンセリングというシチュエーションで思い出すのは、SFの古典アイザック・アシモフ『われはロボット』に登場するロボット心理学者キャルヴィン博士でした。
 本作『タイタン』はアシモフのロボットものの21世紀版と言えそうです。鉄面皮のキャルヴィン博士に比べて、内匠の方がよほど人間らしさはありますが(笑)

 シリアスな会話や学術的な議論だけでなく、ところどころに細かいギャグや超展開で笑いを誘う野崎節も健在。
 中盤の一大転換点にいたっては「そんなバカなw」と爆笑しました。
 人工知能のカウンセリングから何をどうしたら『進撃の巨人』『正解するカド』を連想するような事態になるんだよw

まとめ

 本作は内匠とコイオスのカウンセリングを通じて、「人工知能と人類の関わり方」「労働の意義」の2つのテーマを掘り下げていきます。野崎まど節の効いた刺激的な内容でした。
 仕事とは何かについて登場人物と共に繰り返し考えていくのは「こういう視点もあるのか」と新鮮でしたが、それ以上に人工知能の発展がもたらす未来について考えさせられました。
 ポスト・ヒューマンの世界は案外もう近くにあるのかも、と。
 オススメの作品です!


補足:読んでいて思い出した他作品もろもろ

 本作は描写のところどころに過去の野崎まど作品のエッセンスを感じて、特にテーマが近い『小説家の作り方』『 know』『正解するカド』を思い出しました。
 しかし、いくら本作の優秀なAI達でも歴代野崎作品で最強議論を始めたら、最上最早にはやっぱり勝てないんだろうなあ(笑)

 人工知能のシンギュラリティー問題については、長谷敏司『Beetless』と見比べても面白いと思いました。
 どちらの作品のAIも一筋縄ではいきませんし、権力者がひたすら強欲で愚かなのは共通でしたが(笑)

 カウンセリングを繰り返すうちに擬似家族的な関係を結んでいく内匠とコイオスの2人からは、『エヴァンゲリヲン』シリーズの葛城ミサトと碇シンジを連想しました。
 アプローチを一つ間違えば即座にサードインパクト発動な状況のなかで、本作の内匠はよく頑張ったと思います。『Q』で株大暴落のミサトさんも完結編ではこのくらい頑張って欲しいものです。


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