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早い者勝ち?!世はまさに月面大航海時代!!

1969年7月20日16時18分。’’The eagle has landed” という言葉ともに、アポロ11号は月面に降り立った。それから半世紀が経つものの、アポロ11号ほどの歴史的な出来事を人類はいまだ経験していない。 人類は月の支配者となったのだろうか。

月面を縦横無尽に車が走り、地下居住区には各国の研究所や宿泊施設が建築され、いつも地球からの出張者や観光客たちでごった返している。 50年前アポロを見た人たちはきっと想像していたに違いない。
しかし、未だ月は静かなままである。


こんにちは、JAXAの井上です。
今年はアポロ11号50周年ということで、現在私のメイン業務である月極域探査ミッションのお話をさせていただきたいと思います。

月極域とはなんぞや、と言いますと、地球と同様に月にも北極と南極があり、一部の限られた地域では白夜や極夜が存在します。(残念ながら北極熊はいません)アポロは月の地球側(いわゆる表側)に着陸しました。表側は地球から見えるので通信の観点で有利であることに加え、海と呼ばれる比較的平らな領域が多く着陸しやすいというメリットがあります。

これが月極域になると、表側の着陸よりも相当に難易度が上がります。少しでも裏側に入ってしまうと地球が見えなくなってしまいますし、なにより平らな場所が少ない!6000mの山や-7000mの谷があちらこちらに存在している高低差の激しい土地なのです。なぜそんな地獄のような場所に行くのか、その理由は月極域探査ミッションの目的にも関係しています。

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図1 月極域探査ミッション。右が着陸機、左がローバ。月極域では太陽が真横から当たるため太陽光パネルを縦に搭載している。(©JAXA)


月極域探査ミッションでは、水氷の調査を目的としています。
もし、ある程度の量の水が月の比較的浅い地下に存在していれば、将来の深宇宙探査の資源として利用できる可能性があるからです。

地球から宇宙へは、現状ロケットによる移動手段しかありません。宇宙に物を運ぶにはロケットはまだまだ高いです。ざっくりですが、皆さんの部屋にある蛍光灯が1000万円くらいの価値を持つことになります。もし月に水が見つかれば、飲料としてはもちろん、燃料としても利用が期待されています。

さらに、月極域は地球の極域と同様、太陽が地平線すれすれをずっと沈まない白夜のような状態が続きます。上手く標高の高い場所を選べば、半年以上の連続した太陽光エネルギーを得ることができるのです。通常、月は2週間ごとに昼と夜を繰り返すので、非常に低温で過酷な2週間の夜を越えられなければ、探査機は短い生涯を終えることになります。

このような理由から、月極域はアメリカやヨーロッパ、中国、インドなど様々な国がターゲットにしています。もちろんライバルは国だけではなく、世界の民間企業であることも忘れてはいけません。しかし、水が存在する可能性が高く、太陽光が長期で得られるような標高が高い場所は非常に限られることが分かっています。それはつまり条件の良い地点に降りるためにはどの国よりも早く極域に行かなければならないということです。そう、世はまさに月面大航海時代なのです。

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図2 月の南北の条件の良い着陸地点候補(赤点)。左が北極域、右が南極域の360km四方のマップ。日照などの条件の良い赤点の地域は南北ともに非常に限られていることが分かる。(©JAXA)


私は、この着陸地点候補を見つけるための解析をしています。様々な解析によって、半径50mの精度のピンポイント着陸技術が必要になりそうだ、ということも分かってきました。「はやぶさ」や「はやぶさ2」などのように小さい天体に降りていく場合にはゆっくりと降下できるためそこまで問題ではないのですが(それでも十分難しい!)、月に着陸する場合には大きな重力に引っ張られるため燃料を使って減速しても探査機は「はやぶさ2」の100倍以上の速度で降下していきます。

これは間違いなく世界一の着陸精度です。

他にも、日本初の大型ローバ開発、水の観測技術、国際協力の調整など、様々な課題がありますが、検討チームのメンバーで日々奮闘しています。

実はこのミッション、インドの宇宙機関(ISRO)と協力して実施することを検討しています。課題の多い月極域ミッションですが、チャンドラヤーンミッションで月探査を成功させているインドとの国際協力は心強いです。今年はチャンドラヤーン2号の打ち上げも予定されています。

私たち検討チームは定期的にインドに訪問し、少しずつ準備を始めています。(先日生まれて初めてインドに行きました。この話は長くなるのでまたの機会に。)

月探査はこれからますます注目です。

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井上博夏 |  JAXA研究開発員。

インドアなディズニー好き。エンゲル係数高めな食いしん坊。大学時代の恩師である小野雅裕先生に影響を受け、2016年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社。宇宙科学研究所の月惑星探査データ解析グループに所属し、月極域探査ミッションや火星衛星探査ミッション(MMX)の検討に従事。

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明日もお楽しみに。


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