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年の瀬

「はぁ、はぁ、はぁ、大変だ。間に合わないかもしれない。早く帰らないと。」
男は慌てた様に都会の歩道を走っている。
腕時計を見ると、時刻は23時30分。男は今日誕生日の妻におめでとうと祝いたいのだ。
男はおとといから出張で、昨日から携帯の調子が悪く妻におめでとうの連絡もできていなかった。だから男は日付が変わる前に家に帰り妻の誕生日を祝いたいのだ。
「やばい、やばい、やばい。」
男が走っているとある少年にぶつかった。
「痛てて、おじさんちゃんと前見て走ってよ。」
「申し訳ない、怪我はないかい?」
「うん、大丈夫だよ。俺意外と頑丈だから。」
少年は自信満々に言った。
「よかった。」男は安心した。
「おじさんはなんで大晦日にそんな焦ってるの?」
男は少年に事情を説明した。
「それは大変だね、奥さんもおじさんと一緒に居られないのはさぞ寂しいだろうね。家まであとどれくらいなの?」
「んー、全力で走ってもあと30分くらいなんだよ。」
「もうギリギリじゃん。だって今23時35分だよ、間に合わないんじゃない?」
「うん、間に合わないかも。ケーキも買えてないし、ツイないな。」
男は項垂れてしまっている。
「そういえば君はこんな時間になんでこんなところを歩いていたんだい?」
「僕は年が明けるのを待ってるんだよ。」
「年明けると同時にジャンプでもするのか?」
男は笑いながら聞いた。
「おじさん古いね、でも、まあ、そんな感じだよ。ところでさ、おじさんを家まで連れて行こうか?」
「家まで?そんなこと君みたいな少年ができるのか?それに、年明けるのは待たなくていいのか?」
「うん、大丈夫だよ。それに俺は神様みたいなもんだからなんでもできちゃうんだ。」
「お願いしてもいいか?」
男はほとんど疑っていたし、所詮子供の戯言だと思っていたが、少年が嬉しそうなので付き合ってやるかと思った。
「任せて。おじさんはそこのコンビニでケーキ買ってきなよ。」
男は頷き、コンビニに入り売れ残っていた妻が好きなモンブランを買った。腕時計を見ると、時刻は23時45分。男はコンビニを出たら先程の少年とそっくりの青年が待っていた。
「言ったろ、俺は神様みたいなもんなんだ、身体だって変化させられるんだ。おじさん、俺に捕まっててね。」
男が少年だった青年の肩に捕まると少年だった青年は空を飛んだ。
「どうだ、すげーだろ。」
「凄すぎる。君は本当に神様なのか?」
「まあ、そんなとこ。」
少年だった青年は満足げな笑顔でいった。
あっという間に男の家に着いた。時刻は23時50分。
「ありがとう、本当に助かった。」
「どういたしまして。おじさん早く家に入りな、奥さんが待ってるよ。」
「うん、本当にありがとう。神様。良いお年を。」
「良いお年を。」
少年だった青年は飛んで行った。

男は家に入った。
「ただいま。お誕生日おめでとう。」
妻が出迎えてくれていた。
「おかえり。ギリギリだね。ありがとう。」
男は妻にケーキと事前に買っておいたプレゼント渡した。
「ありがとう。毎年モンブラン買ってくれるね。誕生日に間に合ってくれてありがとね。」
妻は嬉しそうにしている。
時刻は0時00分。
「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」
「あけましておめでとう。こちらこそよろしくお願いします。今年はちゃんとお祝いしてね。」
「また慌ただしくなったらごめんよ。」
男は笑いながら言った。

少年は別の少年のところへ行っていた。
「はじめまして、20X0年さん。今年を見守ってくださりありがとうございます。最後の人助けは楽しそうでしたね。」と別の少年が言った。
「はじめまして、20X1年さん。慌ただしかったけど、最後のおじさんはいい人でした。楽しかったですよ。幸せを願ってます。来年はよろしくお願いしますね。無事に引き継げてよかったです。それでは僕は行きますね。」
時刻は0時00分。少年は消えていった。

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