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映画『春画先生』 変態純愛映画。ジャスミンに女優賞を!(ネタバレ感想文 )

監督:塩田明彦/2023年 日(2023年10月13日公開)


この映画の主人公は、昨日何を食べたかどうかの内野君ではなく、北香那です。
我が家では彼女を「ジャスミン」と呼んでいるので、以下、「ジャスミン」と書きますけどね。

以前も書いていますが、塩田明彦のカット割りは非の打ち所がありません。もう惚れ惚れする。

例えば、ジャスミンが初めて春画先生宅を訪れるシーン。
門の前で迷う様が、教科書のようなカット割りで描かれます。
その一方で、発狂するほど思い詰めたジャスミンが全力疾走するシーンはワンカット長回しをする。だってその方が面白いからね。
塩田明彦の画面の切り取り方には「意志」があります。
小説家の文体、画家や漫画家の絵柄やタッチ同様の、塩田明彦の映画監督としての「筆致」が、私は好きです。

そんな間違いのない演出をする塩田明彦が、ファーストショットをジャスミンのバストアップから始めるんだから、この映画はジャスミンの映画に決まっている。彼女の喜怒哀楽が満載の映画です。

私は「塩田明彦は人生の不条理を描く作家」だと思っています。
生きるのは苦しいことだと描写しながら、「それでも生きろ」とヒドイことを言う。
『害虫』(2002年)なんか超ヒドイ話。映画は傑作だけど。

ところが、この映画は違ったんです。
忘れていました。塩田明彦は『月光の囁き』(1999年)の人でした。
フェチ映画監督だったwww

今回の『春画先生』は、なにやら谷崎的な、あるいはブニュエル的な、変態性癖純愛映画でした。変態性癖純愛映画?なんだそれ?
もうなんだかね、鰹節を削る行為すらエロチックに見えてくる。

春画先生こと内野聖陽が、ジャスミンの怒り顔に対して、渋い低音で囁くんですよ。

「そんな素敵な顔を他人ひとに見せちゃダメだ」

この言葉は、彼女を諫める言葉であると同時に、口説き文句であり、自身の(自分でも気付いていない)本性が隠れているのです。なんて名台詞!
どこかで使いたい!(<どこで?)

そして本当に、リアルガチに、ジャスミンの怒り顔が素敵なんです。
彼女の喜怒哀楽の表情全部が素敵。
この映画、ジャスミンが二度「覚醒」するんです。
ある意味『女は二度生まれる』(1961年)。
ジャスミンは若尾文子(<言いたいだけ)

考えてみると、塩田明彦作品で、こういった軽いトーンの作品は珍しいような気がします。空回りせずに、上手くはまった印象。

余談
エンディングテロップでしか確認してないんですが、撮影は確か芦澤明子だったと思います。黒沢清とかよく撮ってるんじゃないかな。
エロいシーンが湿っぽくない(無駄に卑猥でない)理由は、カメラが女性だからだったかもしれないな、と勝手に思っています。

(2023.10.15 シネスイッチ銀座にて鑑賞 ★★★★☆)

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