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映画『セールスガールの考現学』 少女と国家が垢抜けていく物語(ネタバレ感想文 )

監督:ジャンチブドルジ・センゲドルジ/2021年 モンゴル

初めて観たモンゴル映画。
ある意味、モンゴル版『プラダを着た悪魔』(2006年)。

ありがちな少女の成長譚と言ってしまえばそれまでですが、見知らぬ国の映画だということと、予想外に(?)巧みな映画的描写で、めっちゃ楽しんだんですよ。
映画の導入部からテンポが良いし、犬のクダリなんか最高。

モンゴルといえば遊牧民で、広大な草原のイメージがあるじゃないですか。
ところがこの映画は「都会派」。
首都ウランバートルの今時女子の迷える青春。

モンゴルの都会は我々(少なくとも私)にとって知らない世界だったのですが、ではこの都会がモンゴル社会にとって当たり前かというと、映画を観る限りそうでもないらしい。
主人公の家族だって都会に出てきて10年程度らしいし、まだまだ草原で物売りをする親子がいたりする。
『プラダを着た悪魔』のメリル・ストリープに相当する女社長だって、ひと財産築いたのはどうやらロシアでのことらしい。

こうした描写から、私は「少女も国家も垢抜けていく物語」だと思ったんです。
ラストシーンなんかまさに、垢抜けていく少女とこの国を重ね合わせたようだと感じました。

主人公の女の子は絵を描きます。
彼女は、窓の外を見てサッとカーテンを閉め、それから絵を描きます。
後々、彼女が飛び降り自殺を目撃してしまったことが明かされます。
おそらく彼女はこの窓からそれを目撃したのでしょう。
そして彼女の描いている絵は、きっとその死体なのです。
そう言えば、モンゴルでは「流れ星は死者の魂」だと言い伝えられていると何かで読んだ記憶があります。

この映画は、こうしたことを言葉にしません。
女社長は雄弁に語りますが、主人公の少女はひたすら困った顔をするばかり。
まるで多部未華子。多部ちゃんは世界一困り顔の似合う女優。

この手の「思春期映画」は往々にして「自意識痛い系」になりがちなんですが、この映画はそうではありません。
むしろ「自己のない」主人公。そんな彼女が自己表現の場を見つけるまでの成長譚なんですが、これは今時なんですかね。
「自意識痛い系」も『ゴーストワールド』(2001年)みたいに「分かる分かるよぉ」とおじさんもヒリヒリ感情移入しちゃう映画も時折あるんですけど、それも四半世紀も昔のことですからね…。

余談
モンゴル語が、文字はロシア語に近く発音は韓国語に近いことにビックリした。もっと中国の影響を受けている国かと思った。世界はまだまだ知らないことが多いな。

(2023.05.05 ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞 ★★★★☆)

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