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映画『パリ、テキサス』 テス、スパイク。痩せた男の痩せ我慢(ネタバレ感想文 )
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本作と『ベルリン・天使の詩』(1987年)、その代表作と呼ばれる2作品を若い頃に観たんですが死ぬほど退屈で、それ以来ヴィム・ヴェンダースが苦手でした。
カンヌ国際映画祭60回記念製作映画『それぞれのシネマ』(2007年)っていう世界中の有名監督33人(だったかな?)が3分ずつ撮った短編集があるんですけど、それですらヴェンダースのパートは苦手だったもん。
それが昨年、『PERFECT DAYS』(2023年)を観るために…というわけでもないのですが、機会があって『ことの次第』(1982年)を観ましてね、これが面白かった。ハードボイルドだった。
『PERFECT DAYS』も面白くて、少しヴェンダースが分かるようになった気がしたんです。
そんなもんで、「午前十時の映画祭」に足を運びました。
あのねえ、30余年ぶりに再鑑賞したら面白かった。
めちゃくちゃハードボイルドな映画だった。
やっぱり、大学生の頃は何も分かってなかったんですよね。
ナスターシャ・キンスキーですらよく分かってなかった。
『テス』(1979年)を観たのだって去年ですもの。
あと、トラヴィスが、いや、『タクシードライバー』(76年)じゃなくて、この映画のトラヴィスね、彼がスパイクに似てるんですよ。スパイクっていうのは髭を生やして砂漠で暮らしているスヌーピーの兄貴ね。
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こうやって、人生長いこと生きてると引き出しが増えて、自分の土俵に無理やり持ってこられるんですわ(笑)
そう言えば音楽はライ・クーダーだったな、当時無駄に流行ったな、とか、
原作・脚本サム・シェパードってどういうことだ?お前がヒューストンにいたんじゃねーのか?『ライトスタッフ』(1983年)だろ?とかね。
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この映画は、兄弟、親子、夫婦の関係性が描かれます。
成瀬巳喜男に『娘・妻・母』(1960年)って映画がありますが、本作は「兄・父・夫」です。
これ、それぞれに映画的な良いシーンがあるんですよ。
息子と車道を挟んで一緒に歩くシーンとかね。トランシーバーでの会話とかね。埋められそうで埋まらない距離感。
映画ってこういうことなんですよ。
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砂漠で兄を見つけた弟が、「街で服を買って来るよ。足のサイズは?」って靴を合わせて「1つ上のサイズだ」って言うじゃないですか。
後々、兄貴が靴磨きして「ブーツ交換しようぜ」って言った後にトラヴィスは靴のサイズを比較するんですよ。私の見間違いかもしれませんけど、兄貴の方が靴のサイズが小さいと思うんです。
見間違いか勘違いかもしれないのに勝手にグッときてるんですが、弟が嘘をついてまで、兄を立てようとしているんだと思うんです。
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そして妻ナスターシャ・キンスキーとの対面。
マジックミラー号、号じゃねーや、マジックミラー越しの再会で、ナスターシャ・キンスキーの顔にトラヴィス顔が重なるんですよ。
いやもう、映画的には、鏡に向かって、トラヴィスが自分自身に語っているんです。
つまりこの映画は、見かけ上は妻や家族を探す話ですが、その本質は自分自身と向き合う物語だったのです。
めちゃめちゃハードボイルド。
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この再会シーンは、まるでレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』。
あるいは村上春樹『羊をめぐる冒険』。ハードボイルド。
ハードボイルドってのは男の痩せ我慢なんですよ。
これは痩せた男の痩せ我慢映画。
(2024.06.02 池袋グランドシネマサンシャインにて鑑賞 ★★★★☆)
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