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映画『ほかげ』 少年が大人の狂気を垣間見る物語(ネタバレ感想文 )

監督:塚本晋也/2023年 日(2023年11月25日公開)

印象的なタイトルバックです。
カウンターの上に横たわる趣里の「片腕」。
そして映画後半には、森山未來演じる「片腕(右腕)」が不自由な男が登場します。
このメインキャスト二人の「腕」繋がりは意図的のように思えるのですが、それが何を意味するのか、私には読解できませんでした。

ただの偶然かもしれませんけど、私は、塚本晋也を「都市と肉体を描く作家」だと思っているので、やはり「腕」は彼が描こうとする「肉体」と無縁ではないように思うのです。

塚本監督曰く、『野火』(2014年)『斬、』(18年)に続く3部作だそうですが、私はこの3部作の根底にあるのは「暴力」だと思います。
いやまあ、元々暴力描写が多いんだけどね。
ただ、マクロとミクロの暴力とでも言うのかな、戦争や幕末といった国家レベルの巨大な「暴力」と個人レベルの「暴力」の両方が描かれているように思うのです。
特に本作は、肉体的な危害と同時に精神的な痛みも描こうとしているように感じます。

戦争という巨大な「暴力」で精神を病んだ者を描くのはその一つでしょう。
同時に個人レベルの「暴力」も精神的な痛みが伴います。
豹変する元教師の好青年は、趣里と「坊や」の気持ちを傷つけます。最初から悪人より始末が悪い。
森山未來は、自らの死と天秤にかけながら(自身の精神的な痛みと葛藤しながら)暴力を実行します。

そう言った意味では、酒を持ってくる利重剛も元教師も、善良そうな顔をして弱者につけこんだり暴力を振るったりする。それも女や子供に。まったくもう、利重剛のくせに。
でも、森山未來は、自分より上の者に対する復讐なんですね。
彼の方が人として真っ当な気がします。まあ、復讐を称賛しちゃいけないんでしょうけど。

そしてもう一つ。
闇市のオッサンが「坊や」を放り出します。
それでも少年は何度も立ち上がり、皿洗いを手伝おうとする。
きっと闇市のオッサンは心が痛んだのでしょう。
でも、それが「希望」なのです。
そっと食事やバイト代を差し出した彼の「赦し」と、何度も立ち上がる少年の姿勢に、塚本晋也は「希望」を描こうとした。
それは戦後日本ではなく、今、現在の社会の「暴力」と「不寛容」に対する批判と微かな「希望」でもあるのです。

もう少し言うと、少年が大人の「狂気」を垣間見る物語なのだと思います。
「狂気」だからといってピンク・フロイドを持ち出すと話が長くなるのでやめますが、本作で描かれる「狂気」の根源は戦争という巨大な「暴力」なのです。
巨大な暴力を受けた個人(大人たち)が、さらに弱者の少年に暴力を振るう構図にも見えます。
そう考えると、現代社会の「暴力」と「不寛容」は、今の子供たちの目にはどう映っているのでしょう?

さて、もう一つ。都市と肉体の「都市」について。

たしか塚本晋也は渋谷出身なんですよ。
1960年(昭和35年)生まれですから、渋谷の街が大きく変容していく様を、自身の成長と共に見ていた。それが彼が「都市」に惹かれる理由だと何かで読んだことがあります。
そして「都市」へと大きな変貌を遂げていく渋谷も、昭和40年代頃までは、少し路地裏に入ったり高架下なんかには元復員兵らしき浮浪者とかゴロゴロいたそうですよ。
そうした場所、華やかな都市の「裏」に、戦後と地続きな空間があった。
それを子供ながらに感じていた、といったようなことを塚本晋也がどこかで語っていたと記憶しています。
私も、さすがに昭和40年代の渋谷は分かりませんが、昭和50年代の浅草なら少し分かります。それが「戦後と地続き」と言語化はできませんでしたが、ちょっと奥に入ったら、そこに「闇」があった。怖かった。それが昭和だった。
昭和30年代だったらもっと「闇」が多かったろうに、なんだあの上っ面だけの『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)なんてクソ映画(<あらぬ方向でとばっちり)。

ただ、『ヒルコ/妖怪ハンター』(1991年)でも書きましたけど、塚本晋也は、トリッキーな作風の印象があるかもしれませんが、決してトリッキーな作家ではなく、むしろ「映画的常識人」なのです。

破天荒さは全然なくて、映画として「あるべき所にあるべき物がちゃんと置かれている」んです。
だからこちらも、論理的にあれこれ語り甲斐もある。

でもねえ、最近ちょっと分かりやす過ぎて物足りないんです。
説教臭いとまでは言いませんけど、伝えたいメッセージが明確なせいですかね、分かりやすい。
『悪夢探偵』(2007年)なんて、画面に何が写ってるのかすら分からなかったのに(笑)

(2023.12.10 渋谷ユーロスペースにて鑑賞 ★★★☆☆)

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